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第22話

「私はあの心の美しさと清らかさに今もなお囚われ続けている。きっと彼女を探し出し、この想いを伝えたい。だがそれをするに君と婚約を続けることは彼女にもそうだが、何より君に不誠実だ。勝手なことを言っている自覚はある。だがどうしても諦めきれない。彼女が好きなのだ。愛している。償いはできる事なら何でもしよう。だからどうか、婚約破棄をさせてほしい」  再び深く頭を下げた王子に、きっと真面目な方なのだろうなとゼノンは半ば現実逃避してしまう。 (どうしよう……)  王子、あなたが愛した人と婚約破棄したい人は同一人物なんです――無理無理! 言えるはずがないッ!!  承諾しなければいつまでも頭を下げているだろう王子の様子に、ゼノンの頭はグルグル回るばかりで良い案などひとつも浮かんでこない。こんな状況になるまで完全な勘違いで王子に対しひどく冷めた気持ちを持っていたが、真実を知った瞬間に心が高揚していることもゼノンの混乱に拍車をかけた。  とにかく何かを言わなければならないが、声を出せばさすがに王子も気づいてしまう。どうしようどうしようと混乱しきったゼノンは、はやくこの場を去りたいという逃げの心が上回り、知らぬうちに頷いていた。その動きは王子にも伝わったのだろう。王子はありがとう、と笑みを浮かべる。 「では、お話は終わりでよろしいですわよね? 弟も疲れておりますから、私共はこれで失礼いたしますわ。では――」  アナスタシアは完璧な美しさで微笑むと、未だ混乱しているゼノンの腕に手を伸ばし、カチッとほんのわずかな音を立てると、それをハンカチに包み王子の手に握らせた。 「ごきげんよう」  穏やかに微笑み、アナスタシアの行動にも気づかないほどグルグルと考え込んでいる弟の手を引っ張って足早に馬車へ向かった。  二人の姿が見えなくなるまで見送っていた王子は、ようやくアナスタシアが握らせたハンカチに視線を落とす。何だろうかと不思議に思いながらハンカチを開くと、そこにある物を見て王子は目を見開いた。 「これは――ッ」  そこにあったのは、美しいブレスレットだった。銀の台座にサファイヤが輝く、美しい青のブレスレット。プリスカが一点ものだとデザイン画を見せてくれたそれが、どうしてここにあるのか。 (まさか……)  自分は何か、大きな勘違いをしているのではないか?  王子は何度も何度もブレスレットに視線を滑らせる。  白銀の髪、青い瞳の、強大な月の魔力を持つ彼女。  話によれば婚約者であったゼノン=ディストリアノスもまた、白銀の髪に青い瞳を持つ。そして国が認めるほどの月の魔力を有していて……。 「帰る」  ブレスレッドを強く握りしめ、姿が見えないよう影から護衛をしていた近衛たちに告げる。  これは早急に、調べなければならない。

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