2 / 2
第2話
何故僕がこんな事を考え、想像したりするのか。
──それは同じクラスに、幼い頃両親が殺され、遠い親戚に引き取られるものの酷い虐待を受け、早く自立したくてバイトで金を稼いでいるという奴がいる。
そいつは、僕が長年密かに想いを寄せている彼と親密な仲になっていたのだ。
その彼に、思い切って友達になろうと声を掛けた時、ハッキリとこう返された。
『……貴方と彼とは、全然違うから』
普通を生きてきた僕には、何もない。
掻き集めたとしても、せいぜい虐めた虐められた位なもの。
そんなありふれたものでは、彼を振り向かせる事なんてできない。
あんな、人から同情されるような不幸な境遇を、最初から持ち合わせているのはズルい。
……不公平だ。
ゴォ──ッ
激しい音と強い風圧。
それに身体が引き込まれ、侵入禁止線を踏んだ足が本能的に後退る。
瞬き数回で通り過ぎていく快速電車。それを見送ってしまった事が悔やまれる。
「おーい、伊勢谷!」
突然呼ばれ、振り返る。
視界に映ったのは、同じクラスの神田と前沢。
「これから俺ら、銀女と合コンだけど…お前も来るか?」
「……」
「彼女にフラれた位で、いつまでも落ち込んでんじゃねーよ!」
「そーだぞ。…お前、ソコ飛び込んで自殺なんかすんじゃねーぞぉ!」
ケタケタと笑いながら、神田と前沢が悪い冗談を交えて僕に励ましの言葉を掛けてくる。
「……ばーか。んな事で死ぬかよ!」
瞬時に笑顔の仮面を貼り付け、演技じみた冗談で返す。
「……」
真っ直ぐな笑顔の二人。携帯に釘付けの女性。
その間を無機質に行き交う人々。
見知らぬ学生達。ラフな格好の青年。サラリーマン。赤ん坊を抱いた母親───
ざわざわざわ……
……ああ、そうか。
もしあの時、飛び込んでいたら……
僕だけが時間を止め、僕以外がその先を生きていく──人生の火花が散った後は、きっとそれだけなんだろう。
結局、何も無いんだ。
最初から。それ以上でもそれ以下でもなく。
注)
都内に馴染みがない為、実際の銀座線とは異なる事をご容赦下さい。
また銀女とは、架空の学校名です。
ともだちにシェアしよう!