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第14話 いっちゃんとオレ・終
ショッピングモールから帰ってきて、いっちゃんと一緒に夜ご飯を作って食べた。相変わらずオレの料理の腕はどうしようもない状態だったけど、これから先もずっといっちゃんに教えてもらうから、そのうちきっと上達するはず。
食べ終わったら二人で片付けて、その後はソファでぴったりくっついてお笑い番組を見ている。目はテレビを見ているけれど、オレの意識はいっちゃんに向かいっぱなしだ。いっちゃんからもそんな感じがするから、なんとなくいっちゃんの気配が気になってしまう。
「圭人 」
「んー?」
頭を撫でるいっちゃんの手が気持ちいい。思わずいっちゃんの肩に乗せた頭をぐりぐりしてしまった。そんなオレに小さく笑ったいっちゃんが、テレビを見たまま口を開いた。
「今夜スる?」
「お茶飲む?」みたいな言い方だったから、一瞬何を言われたのかわからなかった。しばらく考えて、「する」っていうのは、つまりそういうことだよな……ってことに気がついた。
いっちゃんとは、まだちゃんとしたことがない。二人で抜きあったり、いっちゃんはオレのちんこを舐めたりもするけれど、それ以上のことはしていない。
代わりに、一緒にお風呂に入ったときに尻の穴をいじられるようになった。最初は触っているだったけど、いまじゃ指が三本も入るようになった。入れられてもそんなに痛くなくなってきたし、たまに気持ちいいときがある。
指一本入れたときのほうが三本よりもずっと違和感があった気がする。それなのに、二本目くらいから違和感もなくなった。慣れてきたのかもしれないけど、いっちゃんのいい匂いを嗅ぎながら指を突っ込まれると、何て言うか……疼くっていうか、もっと奥に入れてほしいって思うようになったんだよな。
(だからかな……)
三本も入れば、きっといっちゃんのちんこも……なんて、最近密かに思っていた。ちんこのほうが指三本より太いけど、いまのオレの尻ならたぶん入る。だから「今夜する?」って聞いてきたに違いない。
「する」
「意味、わかってる?」
「もちろん。どーんとこい」
「男前な返事だな」
笑っているいっちゃんに、ぎゅっと抱きついた。
「だってオレ、いっちゃんとしたいもん」
「じゃ、シよっか」
そう言って、いっちゃんがぎゅっと抱きしめ返してくれた。
お風呂でいろいろ準備をしてから、二人して素っ裸のままベッドに転がった。ゴロゴロしながらキスをしたりちんこを触ったりしていたら、いっちゃんの指がオレの尻の穴を触り始めた。しばらく指で穴を撫でたあと「準備、しようか」って言われて、ドキドキしながらも頷いて起き上がった。
「んッ」
膝立ちしてるオレの尻には、向かい合わせであぐらをかいたいっちゃんの指が入っている。クチュクチュ音がするのは、いっちゃんが用意してくれたローションの音だ。その音が聞こえるたびに「これからするんだ」って実感できて、ドキドキが止まらなくなる。
本当は「もう入れていいのに」って焦れったかった。痛くないし、指の根元まで入っているのがわかったからだ。
でも、唇を噛んでグッと我慢した。だって、いっちゃんはオレが痛くないようにと思って準備してくれているんだ。いっちゃんの指が動くたびに体が勝手に動くから、いっちゃんの頭に抱きついて動かないように我慢もした。
「三本入るの、早かったな」
「だ……って、はやく、いっちゃんとしたい、からっ」
本当にそう思ってるからそう答えたのに、いっちゃんはなかなか指を抜いてくれない。それどころかめちゃくちゃ感じるところをグリグリ押してくるから、尻の穴が勝手にキュッと締まってしまった。
「やだっ、そこ、イッちゃう、って、……ンッ!」
「何度でもイッていいよ。……って、もしかして、ちょっとイッた?」
「……いっちゃんって、意地悪だ……」
穴の中を指で押されただけで、本当にちょっとだけイッてしまった。まさかちんこを触らなくてもイけるなんて自分でもびっくりだ。まだ変な余韻が残っているからか太ももがヒクヒクして、ちょっとだけ膝立ちがつらい。
「意地悪じゃないよ。圭人 には十分気持ちよくなってもらいたいからね」
「オレ、もうすっげぇ、気持ちよくなってるって……」
「うん、わかってる。でも、トロトロになっておかないと怖いかなと思って」
言っている意味がわからなくて、頭に抱きついていた腕を緩めていっちゃんの顔を見た。
「そこに入れるって、オレわかってるし」
「それでも、僕のは少し違うから」
やっぱり意味がわからない。
そりゃあ、いっちゃんのちんこは大きいほうだと思う。オレのより大きくて色も違うし、オレみたいに先っぽが少し被っていたりもしない。これが大人ちんこかってマジマジと見ながら尊敬したくらいだ。だからって、ほかの人と違うとは思わない。
「僕の全部を受け入れてほしいんだ。そのために、ちょっとだけ無理させちゃうことになるんだけど……。でも、それが偽りのない僕だから」
そう言ったいっちゃんが、オレの乳首をペロッと舐めた。それだけで気持ちよくなったオレは、乳首を口でいじられながら指で穴をいじられ、ちんこも抜かれて今度こそびゅるっと射精した。
それから二人してベッドに転がって、たくさんキスをした。口がべちょべちょになるくらいしたあと、いっちゃんが体中にキスをするから、オレはすぐにメロメロのヘロヘロになった。
そうしてやっと入れるってときになって、いっちゃんはうつ伏せになるように言ってきた。オレは後ろからっていうのが嫌で、いっちゃんを思い切り睨んだ。
「そのほうが体つらくないから」
「だから、オレは前からがいいって言ってんの!」
いっちゃんの言っていることは何となくわかるけど、それでもオレは最初が後ろからなんて嫌だ。だから何度も前からがいいって言っているのに、いっちゃんは「うん」って言ってくれない。
「圭人 」
いっちゃんが困ったような顔をしている。でも、これは絶対に譲れない。だって、オレはいっちゃんと抱き合いながらしたいんだ。初めてだからこそ、ちゃんと抱き合ってやりたかった。
(それに、自分で股を開こうって思うくらい、オレはいっちゃんのことが好きなんだよ)
たぶん、男が男に股を開くっていうのは勇気がいることだ。相手がほかの奴だったら絶対にためらっていた。元カレの誰を思い出してもゾッとするし、絶対に嫌だと拒絶したと思う。
でも、いっちゃんが相手なら喜んで開けると思った。むしろ自分で開くから、早く入れてほしいって思っているくらいだ。
「そのくらい、オレはいっちゃんが好きなんだって」
言いながら仰向けに寝転んだオレは、自分の膝を手でつかんだ。そのまま、ゆっくりと膝を開いていく。いっちゃんから見たら、きっとM字開脚してるように見えるはずだ。
(こういう格好って、男のロマンだって言うしな)
だから、いっちゃんも興奮してくれるんじゃないかな。興奮して、このまましてくれるんじゃないかって期待した。
「……はぁ、困った子だな」
「いっちゃん……」
「怒ってるんじゃないよ。こういうふうに男を煽ると、どんな目にあうか教えておかないとと思って」
いっちゃんの目がスッと細くなった気がする。鋭く光る目を見たら、どうしてかいっちゃんに食べられるんじゃないかと思ってしまった。まるで動物みたいな雰囲気の目を見たら、頭からバリバリ食べられる自分を想像していた。
そして、そう思ったのは間違いじゃなかった。
仰向けになってカエルみたいに股を開いたオレの尻に、いっちゃんはでかくなったちんこを少しずつ入れた。少しずつ入れて、ちょっと抜いて、そうされると気持ちがよくて変な声がたくさん出た。
そのうちとんでもない奥にまでちんこが入ってきて、お腹が苦しくてたまらなくなった。息ができないくらい苦しいのに、気がついたらそれも気持ちよくなっていた。
「ははっ」
でかいちんこを尻に突っ込まれて気持ちがいいなんて、オレって変なのかな。そう思ったら、勝手に笑いが漏れていた。
でも、いっちゃんのちんこは本当に気持ちがよくて、苦しいはずのお腹の奥がゾクゾクしたんだ。この前こっそりスマホで調べたとき、アナルは処女より痛いって書いてあったけど、あれは嘘じゃねぇかなって思うくらい気持ちがいい。ちんこを抜くよりも気持ちがよくて、オレってそういう素質があったとか? なんてバカなことを思ったりした。
「っと、笑うと締まるから、」
オレを見下ろしてるいっちゃんが、ちょっとつらそうに眉を寄せている。そのくらい、いっちゃんも気持ちがいいってことだ。それがうれしくて、また「ははっ」って笑ってしまった。
「まだ笑う余裕があるなんて、圭人 は素質十分ってことか」
「え……?」
いっちゃんの目が、また細くなった。
「思ったより早く体が準備万端になったね。まぁ、二十年近くかけてマーキングしてたら当然か。……うん、これなら全部入れても大丈夫かな」
「いっちゃ……」
「ん」を言い終わる前に、いっちゃんのちんこがズルルって半分くらい抜けた。それも気持ちよくて「ンあ!」なんて声が出てしまう。
そんなオレを見たいっちゃんが、にっこり笑って「かわいい」なんて言うから、穴がキュッと締まってしまった。そうすると太いちんこをすごく感じて、もっと気持ちよくなってくる。よくわからないけど、これが「準備万端」ってことなんだろうか。
「……あぁ、たまらないくらい、いい匂いがしてる。これが圭人 の匂いか……ずっとずっと、このときを待ち焦がれていたんだよ」
「いっちゃん……」
先っぽだけ入れられてギチギチに広がった穴を、今度は竿の部分がズブズブ擦っていって一気に奥まで入ってきた。
「は、……ハッ、は……」
目の奥がチカチカする。うまく息ができなくて、泳いでいるときみたいに苦しくなる。
「まずは、一度目の匂いづけだ」
いっちゃんの声がした。ぼんやりした頭で見たいっちゃんの顔は、ちょっと怖く見えた。口は笑っているのに目は細くなっていて、いつもと違う感じがする。ギラッと光る目は、まるでテレビで見た獲物を狙ってる野生動物みたいだ。
(……そっか、オレはいっちゃんに食べられるのか)
だって、いっちゃんは……。
そう思ったら、めちゃくちゃドキドキしてきた。食べられるのがうれしくて、ちんこも尻もキュンとする。
「いっちゃん、大好き」
気がついたら勝手に口から出ていた。毎日言っているけど、いま言わないといけないと思ったんだ。
「……天然小悪魔め」
何かつぶやいたいっちゃんに、ものすごい力で抱きしめられた。手も足も向いてる方向なんて関係ないくらいの力で、まるで両腕で締め上げるみたいにぎゅうぎゅうに抱きしめられる。
体中がギチギチにされて息ができないくらい苦しいなか、でかいちんこが奥にズボッと入ったのがわかった。そのままちんこがどんどん大きくなって、……穴のところが、ぐわっと広がった気がした。
穴がどんどん広がって、どんどん苦しくなる。苦しくてちゃんと息ができないからか、頭までチカチカしてきた。それでも自分の尻の穴が怖いくらい広がっていくのがよくわかった。
(壊れる……、穴、壊れる……って……!)
本気でそう思った。本当に壊れるんじゃないかと思って怖くてしょうがなかった。それなのに、どうしてか尻の中の全部が気持ちよくてたまらない。怖いのに気持ちがよくて、体中がパニックになった。
「ひ、ヒ……ッ! 尻、こわれ、穴、こわれる、っ……!」
「大丈夫。圭人 はもう僕に近いものだから、全部を受け入れられる」
「ひっ! 穴、もうムリ、広がらな、も、アァッ!」
「……ふぅ、本番は、これからだよ」
いっちゃんの声がしたあと、お腹の中がぐわっと熱くなった。壊れたんじゃないかっていう穴のところで、膨らんだ何かがビクビク震えている。尻の中の太いのもビクビクしている。震えるたびにお腹の奥が熱くなって、今度は体中からぶわっと汗が吹き出た。
「なに……、体、あつぃ……」
お腹の中でビクビク震えているのを感じるたびに体が熱くなった。ジワジワ熱くなって、今度は尻だけじゃなくてお腹の中全部がたまらなく気持ちいい。
「ぁ……ンッ! いい……、きもちイイ……、イイ……ッ!」
気持ちがよくて体がブルブル震えた。気持ちよすぎて腰がガクガクする。背中までビクビクして、ちょっと体が動くだけでお腹の奥がゾクゾクした。気がついたら、体全部がガクガク震えまくっていた。
「……これで圭人 の全部が、僕のものになった」
いっちゃんのうれしそうな声が聞こえてきて、ゆっくり目を開けた。目の前にあるいっちゃんの目が、気のせいじゃなければ灰色っぽい青色に見える。
「ずっと待ってた甲斐があったよ。小さい頃から何度も何度もマーキングして、少しずつ僕に慣らしてきたんだ。おかげで心だけじゃなく、体もすっかり僕好みだ」
いっちゃんは普通にしゃべっているけど、お腹の中にある太いちんこはビクビクしっぱなしだ。
「母さんが父さんから逃げたのを見て、僕にも真のつがいはできないんだと諦めていた。でも、圭人 に出会った。生まれたばかりの圭人 の匂いを嗅いだ瞬間、この子だと確信したんだ」
オレの頭を撫でるいっちゃんから、どんどんいい匂いがしてくる。その匂いを嗅ぐだけで頭がぼんやりして、でも体はどんどん気持ちよくなっていく。
「いっちゃん……」
「僕のものにするために頑張ってはきたけど、ここまで変化するなんて想定外だ。こんなに素晴らしい相手は圭人 以外あり得ない。……それにしても、憑き物落としの御利益を与える側のはずなのに、これじゃ憑き物を与える側みたいだな。まぁ、本物は御利益なんて与えない獣でしかないんだけど」
いっちゃんが「はは」って笑っている。いっちゃんの話はよくわからないけど、体中が気持ちよくてフワフワしてきた。それがうれしくて、いっちゃんの背中をぎゅうっと抱きしめた。
「きもちイイ……。いっちゃん、ドクドク、きもちイイよ……」
「僕たちの射精は長いからね。しばらくはこのままだよ」
やっぱりよくわからなかったけれど、気持ちいいのが続くなら大歓迎だ。「気持ちいい」しか言えなくなったオレは、全身をガクガク震わせながらいっちゃんを感じ続けた。
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・
・
「よー、久しぶり」
「よっ」
「うわっ、おまえ焼けすぎじゃねぇ?」
「そっちこそ丸焼けじゃねぇか」
「俺は配達のバイトで外回りばっかだったんだよ!」
「おー、そりゃかわいそうに。俺なんか夏休み後半は彼女と沖縄旅行だぜ~?」
「はぁ!? 嫌味かよ! どうせ俺は彼女できませんでしたよ!」
「まぁまぁ。ほらこれ、沖縄土産だってさ」
「ちんすこうかよ」
「いらねぇなら食うな」
「食うわ!」
久しぶりに会ったからか、にぎやかすぎる声がちょっと煩わしい。それでも、夏休み明けの無駄に騒がしくて気だるい感じは嫌いじゃなかった。
「そういや圭人 も旅行行くって言ってなかったっけ?」
「あー、それ延期になった」
「おや~? モテモテの圭人 くん、もしや夏休みの間に彼女にフラれたとか~?」
「いや、フラれてねぇし」
「だよなぁ。モテキングのおまえがフラれてるんなら、俺ら誰も夏休みに彼女できてねぇよなぁ」
「あれ? でも圭人 って、イベントのときはいっつもフリーじゃなかったっけ?」
「そうだっけか?」
「夏休みもだけど、クリスマスとか正月とか大型連休とかフリーだったじゃん」
「あ~、そうだった気もするな」
「ま、モテキングの圭人 にはイベントとか関係なさそうだけどな」
「だよな~」
いい加減、その頭が悪そうな呼び名はやめろよな。そう思いながら騒いでいる奴らをチラッと見る。
「……」
「……」
「……なんだよ」
「あ、いや……」
(なんで急に黙るんだよ、感じ悪ぃな)
思わずそんなことを思ってしまった。だって、あれだけワイワイしゃべっていた全員がピタッと口を閉じてオレを見ているなんて、不気味すぎるだろ。
「だから、なんだよ」
「あー、いや、何って言うほどのことじゃないんだけどさ」
「なんだよ、はっきり言えよ」
何人かがチラチラ視線を交わしている。おまえら、本当に感じ悪いぞ。
「あー、気ぃ悪くするなよ?」
「しねぇから言えって」
ジロッと睨んだら、ハァとため息をついた奴が口を開いた。
「おまえ、なんか色気すげぇんだって」
「……はぁ?」
「だから睨むなよ」
「夏休み前から思ってたけど、なんつーの? いまは色気倍増し的な?」
「なんだそれ」
「だから、気ぃ悪くするなって言ったじゃん」
「いや、悪くはしてねぇけど」
まったく意味がわからない。
「だから、てっきり彼女と旅行行ってラブラブしてたんだと思ったんだよ」
「もしくは彼氏とか?」
「あー、そっちのほうが納得いくわ」
「彼氏とラブラブしてりゃあ、ま、この色気もわかるか」
彼氏と言われて、すぐにいっちゃんの顔が浮かんだ。思わずニンマリしたら、「ほらそれ! 無駄な色気!」とかなんとか周りの奴らが叫んでいる。
いっちゃんのせいで色気が増したっていうなら悪い気はしない。むしろいい気分になるから、まだ「色気魔人」だの「絶世の色気美少年」だの、頭の悪そうなことを言っている奴らにもにっこり笑ってやった。
すると、またもやシーンとなった。ったく、にぎやかだったり急に静かになったり、忙しい奴らだな。
(……いっちゃん、今日は一日図書館って言ってたっけ)
オレはいっちゃんを思い出しながら、まだ蝉がうるさい窓の外を見た。
夏休みの間、オレはほとんどずっといっちゃんの部屋にいた。いたっていうより、住んでいたと言ったほうが正しい。
そうして、ほとんど毎日いっちゃんと抱き合っていた。あれこれ計画していた旅行は冬休みに延期して、時間なんて関係ないくらいセックス三昧だった。お腹の奥にいっぱい出してもらったり、顔とか胸とか背中とかにもたくさんかけてもらった。そのあと口でしゃぶって、そのまま飲んだりもした。
(そういや、あんなちんこ見たの初めてだったな)
抜き合いをしていたときは、大きいし色も違っていたけど普通のちんこだった。それなのに、夏休みにオレが握ったりしゃぶったりしたいっちゃんのちんこには、根元にコブみたいなものがあったんだ。
一瞬、ちんこに何か入れているのかと思った。でも、いっちゃんが「僕たちが本気で興奮するとこうなるんだ」って笑っていたから、あれがいっちゃんの普通なんだろう。それに、量もすごく多いんだ。
きっといまのオレからは、いっちゃんの匂いがプンプンしているはずだ。おかげで、どこにいてもいっちゃんのいい匂いがするからオレは大満足だ。
(年末には、親父とお袋に挨拶するって言ってたけど……)
いっちゃんは、オレの両親に「恋人になりました」って挨拶したいらしい。そういうところは本当に真面目だ。
(……まぁ、挨拶するって聞いたときは、オレもすっげぇうれしかったんだけどさ)
普通なら、男同士だし結婚するわけでもないんだから挨拶なんて考えない。いままで大勢と付き合ってきたオレだけど、挨拶なんて一度も考えたことがなかった。
でも、いっちゃんは「ちゃんと挨拶するから」って言った。「それに大丈夫だよ」とも言ってくれた。
(普通は驚くか怒るかだろうけど……)
でもオレは、親父もお袋もそんな反応はしないんじゃないかと思っている。二人ともいっちゃんのことを実の息子みたいにかわいがっているし、昔からいっちゃんを信頼しきっているからだ。
それに、もしオレたちのことで何か思っているなら、とっくの昔に何か言ってきたと思う。そのくらいオレはいっちゃんにべったりだったし、夏休みの間なんて引くくらいいっちゃんの部屋にいたんだ。
(うん、絶対に大丈夫)
だから、これから先もオレといっちゃんはずっと一緒にいられる。なんとなくだけど、そう確信していた。
そういえば、いっちゃんはおじさん……いっちゃんのお父さんにオレのことを話したらしい。いつの間に話したのか気づかなかったけど、おじさんからは反対されなかったって聞いてホッとした。
(そういえば、「父さんも僕と同じだからね」って言っていたけど、どういう意味だったんだろう)
おじさんは、相変わらずほとんどを外国で過ごしている。いまは東南アジアだか中央アジアだか、そういうところにいるらしい。その前は中国で、その前は……ええと、どこだったかな。
それだけ世界各地に行っているおじさんは、日本に戻ってくるたびに変なお土産を持って帰って来た。オレも昔もらったことがあるけど、いつも狼に関係する何かなんだ。
ちなみにいっちゃんの実家には、狼の写真や置物、よくわからない狼の絵が描いてある本なんかがたくさんある。一番びっくりするのは、すごく昔に手に入れたっていう狼の骨っぽいやつだ。
(本物かはわかんねぇけど、あれ、ちょっと怖かったんだよなぁ)
小さい頃、チラッと見たその骨が怖くて、それから土産物がしまってある部屋には近づかないようになった。だってさ、骨ってだけでも怖いのに、なんか変な匂いがする気がしたんだ。骨はきれいだったし匂いなんてしないはずなのに、一瞬だけだけど果物が腐ったような変な甘い匂いがした気がしたんだよな。
……そういえばあのとき、いっちゃんに匂いのことを話した気がする。そうしたら「骨になっても匂いがわかるなんて、やっぱり圭人 で間違いない」みたいなことを言われたんだよな……。どういう意味だったのかわからないけど、褒められた気がしたオレはニコニコ笑い返したんだっけ。
「はぁ」
いっちゃんのことを考えていたら、急にいっちゃんに会いたくなってきた。そう思うだけで勝手にため息が出てしまったけど、周りにいる奴らは「よっ、ため息王子!」なんて騒いだりはしなかった。
周りがやけに静かなのはちょっと気になったけど、それよりいっちゃんのことを考えるのに忙しいから静かなのはありがたい。学食にいる間中、オレは窓の外の入道雲を見ながらいっちゃんのことばかり思い出していた。
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