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最後の初恋。
親友から結婚式の招待状が届いた。真っ白い衣装に包まれて目の前で幸せそうに笑う二人に、マイナスな言葉は一言も出てこなかった。
「おめでとう、幸せにな」
「あぁ、ありがとう。お前が祝ってくれるのが一番嬉しいよ」
あーあ、呑気に鼻の下を伸ばしちゃって。俺がどんな気でいるかなんて、絶対知らないんだろうな。
「つか、お前が結婚とか、未だに信じらんねぇ」
「ひっでー、ここに来てそれ言う?」
ほら、ちょっと言ってやっても冗談だと取られて笑って流される。きっと結婚相手は、こういう奴だから好きになったんだろうな。今だって、ほっぺた真っ赤にしちゃってさ、目をウルウルさせてこいつのこと見つめてるんだから。あれ? 俺なんの為に呼ばれたの? ノロケ聞くだけの係? イチャイチャするのは二人きりの時だけにして欲しいんだけど。
「で、お前は結婚の予定ないのか?」
「うわー、早く子供作れって急かす姑みたーい」
「茶化すなよ」
「お前が最初に言い出したんだろ、予定とかそんなもんねーわ」
ここで、式が始まるとプランナーらしき女性に声を掛けられて、一旦俺は席についた。二人のムービーやら手紙の読み聞かせやらを見ながら豪華なご飯を食べる。ムービーも手紙もツッコミどころがありすぎて笑いが止まらなかった。
「お前、泣いてんのか?」
「へ?」
「顔、ぐしゃぐしゃじゃん」
隣の席に座っていた高校時代の友人に指摘されて、笑って泣いていたことに気付いた。スーツにまで垂れるほど、友人の言う通り、文字通り、顔面大洪水だった。
――そっか、悲しかったのか……。
ポケットに入れていたハンカチが絞れるくらい涙と鼻水を拭いて、俺は会場を出た。デザートを食べる気にも、お色直しを見る気にもなれなかった。
「お客様、これをどうぞ」
出口で貰った引き出物は、甘ったるそうなバウムクーヘンだった。俺、甘いの苦手って言ってたのに……嫌がらせかな?
ものすごく晴れていた気がするのに、また自分の周りだけ土砂降りの雨。おかしいな、こんなに酷い天気だった? また顔がぐしゃぐしゃなんだけど。
***
『好きだ』
告白したのはいつだったっけ。その時も、あいつは笑って
『ありがとう、俺もお前が好きだよ』
って返してきた。違うんだ、友達の好きじゃないんだ。親友のポジションで終わりたくないから、決死の告白だったんだ。お前の優しさが辛い、でもその優しさが好きになったきっかけなんだよ。無下にしないで欲しい。
『やっぱり女の子じゃないとダメ?』
自分も大概酷いことを言ってると思う。案の定、ポカンとした顔で目をパチクリさせてる。
『や、ごめん、今のナシ、聞かなかったことにして』
『お、おう……お前がそう言うなら』
混乱させるだけだった告白も、やっぱり困らせたくなくて無かったことにした。その後、本当に無かったように親友のポジションでとどまった。お互い結婚のタイミングを逃せば、ワンチャン同居とか出来ないかなーとか考えてた自分が惨めだった。何年もかからず、結婚するんだと嬉しそうに報告された。会社の同期で、素敵な人なんだと一番に紹介してくるあたり、やっぱり俺はあいつにとって親友の域を出なかった。親友の悲しむ姿を見たくなかった俺は、結婚式までの間、否定的な言葉を封印したのだ。【親友】だから。
「……やっぱり甘いの苦手だよ、ばーか」
帰宅してつまみ食いしたバウムクーヘンは、俺には甘すぎたけど、なぜかちょっぴり塩味がした。
End
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