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第6話
「…ごめん!遅れた」
朝、着ていく服を選んでいて遅くなった俺は先に着いて待っていた治朗に片手で謝り、走って近づく。
どれを着ていこうか服を色々選んでいる途中、約束の時間が近づいている事を彰に指摘されてハッと我に返って慌てた。
ベッドの上には俺が引っ張り出した服が散らばっている。
(何故、着ていく服を選んでいるんだ、俺は!!)
乙女か!!
いつも着る服に頓着しない俺が珍しく着ていく服を選んでいる姿を見て彰が何か気付いたんじゃないかと青くなったが、彰は別に何も気付いてないみたいでホッとした。
(…うん、そうだよ。実際、何もないわけだし…二人きりじゃないし、皆、いるし…)
結局、彰が選んでくれた服を着る事にした俺は(今更ながら)渋々行く風を装い、映画を見たらすぐ帰ってくるからと何度も彰に言って(その度に、彰からは大丈夫だからゆっくりしてきなよと言われた)部屋を出た。
俺を見送る彰の笑顔に胸が痛む。
もしかして、別の場所で待ち合わせというのがいけないのだろうか。
待ち合わせなんて、デートみたいじゃないか。
………いや、皆がいるんだからデートじゃないけど……それは分かっているんだけど。
皆で一緒に寮を出ていけばこんな後ろめたい思いをしなかったのだろうか。
大体、治朗がいけないんだ。
全寮制で皆、同じ場所に居るんだから今更、外で待ち合わせしなくても寮から一緒に行こうと言ったのに………治朗が絶対、外で待ち合わせするんだとか言いだしたから………結局、駅前で待ち合わせをする事になってしまって。
「おそ~い」
俺を見つめて両頬を膨らませている治朗は確かに可愛い。
いつも見慣れている制服じゃなく私服だからかいつもの2割増しは可愛い。
「…ごめん、ごめん、あれ、皆は?」
待ち合わせ場所の駅前には、治朗ひとりしかいなかった。
キョロキョロと周りを見回す俺に。
「…ああ…皆、何か用事ができたから行けないって」
治朗は何事もないように答える。
「…え…皆!?」
ドキリと心臓が跳ねる。
(…て事は…俺と治朗、2人きりって事!?)
「じゃ、行こうか」
2人きりと聞いていきなり緊張してしまった俺に、治朗はにっこり笑いかけると右手を差し出してきた。
「…う、うん。行こう……か」
俺は差し出された治朗の右手を気付かない振りをして歩き出す。
(…俺さえしっかりしていれば大丈夫、映画を見るだけだし)
自分に言い聞かせるようにして歩き出した俺の後で治朗のクスリと笑う声が聞こえた気がした。
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