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「悔しいけど、御堂さんにはお礼を言わないとダメですね。寝る場所を提供してくれたんだし」 「あんな奴に礼なんて言う必要無いだろ」 もしかしたら、瀬名も一服盛られていたかもしれないのだ。 理人は瀬名をじっと見つめ堪らず彼の胸に顔を埋めた。 「り、理人さん?」 「すまない……瀬名。俺は、俺が好きなのはお前だけだ……。それだけは絶対に変わらないから」 蓮と交わした約束を思うと、罪悪感で押しつぶされてしまいそうになる。 「急にどうしたんですか? 珍しいですね、直ぐ側に大勢人がいるのに理人さんが甘えて来るなんて……」 「っ……別に……。言っておきたくなっただけだ」 確かに、此処は駐車場で外にはまばらではあるが花見客が周辺を行ったり来たりしている。 普段なら絶対にこんな事はしない。恥ずかしすぎて死ねる自信がある。 けれど、今日だけは許して欲しい。 「まぁ、僕は嬉しいですけど……」 そう言って柔らかく笑い瀬名が自分を抱きしめ返してくれる。 それが嬉しくて、切なくて、胸が苦しかった。 (ごめん、瀬名……) 心の中で何度も謝罪を繰り返しながら、理人はそっと瀬名の背中に腕を回した。 「――あの……。そろそろ、戻りませんか? ナオミさん達も心配してるだろうし。それに……こんな可愛い事されてしまうと僕のボクが大変な事になりそうで……」 「あ?」 一体なにを言っているんだと思わず首を傾げる。 「流石に人の車で真昼間っからカーセックスはマズいでしょう?」 「カーセッ……っ! アホかお前はっ!! 涼しい顔して何言ってんだバカッ」 言われた意味を反芻し、理解した途端顔から火が出そうなくらい真っ赤になった。 「お、おまっ、変態か!? こ、こんな所でっ」 「理人さんのそういう初々しい反応、大好きですよ」 ちゅんと啄むようなキスが落ちて来て、悪戯っぽく笑われ二の句が継げなくなる。 「まぁ、僕はこのまま此処で押し倒したっていいんですが……」 「だ、駄目だっ! 絶対嫌だっ!」 「ふふ、冗談ですよ。じゃあ、帰りましょう?」 耳元で甘く囁かれて、慌てて身体を離し扉を開ける。 爽やかな風に乗ってひらりと桜の花びらが車内に舞い込んできた。 「……」 「どうかしましたか?」 「いや、なんでもない……」 理人は目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をする。 (大丈夫だ……きっと……。まだ時間はある……。だから……それまでに……) 決意を固めるように理人は桜を眺めながら拳を強く握った。

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