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第7話 悪鬼

「あれは星空じゃない」  呆然と見上げるしかできないでいる陽向にその人は静かにそう言った。水のように涼やかなその声に含まれる深みは男性のそれだった。 「あれは光石。発光する石。ここいらにはたくさんある」  温度の感じられない声で彼は説明を続ける。だが、陽向は返事を返すことができない。黙りこくって見上げるばかりの陽向に彼はふっと眉間にしわを寄せた。 「もしかして……言葉が、わからない?」  少し面倒そうに問われ、陽向は慌てて首を振った。彼はわずかに肩で息を吐いてから問いを重ねた。 「声は? 出る?」  こくり、と頷く。声を発せず頷く陽向に彼はますます眉を顰める。だがなにを言っていいかわからない。困惑したまま彼を凝視すると、眉間のしわを深くしながらその人は言った。 「なにをじろじろ見てるの」  不機嫌そうな声にはっとする。なんと答えようか困惑する。だが目覚めたばかりの脳が複雑な言い訳を用意できるわけもなく、結局思ったままの言葉を陽向は吐き出した。 「見たことがないくらい、綺麗な人だと思ったから」  陽向の答えを聞いた彼の顔に表情の変化はない。ただ無言で腰を伸ばし陽向から遠ざかる。視界から消えたその姿を目で追っていた陽向はそこで気が付いた。ここが石造りの建物の中だということに。  細い手を伸ばし、戸棚からランプを取り出した彼は火打石を使って火を点けると、平らな岩を切り出して作られているらしいた机の上にランプを置いた。炎の色になめられ、頭上から降り注いでいた青白い光が消える。 「確かに……君のような人を僕も見たことがない」  淡々と言われ、陽向はふっと目を瞬く。すたすたと元通りこちらに戻って来た彼は、横たわる陽向のすぐ横にある椅子に腰かけて言った。 「赤い目と髪。まるで伝説に出てくる悪鬼のような」 「悪鬼?」  顔をしかめると、彼は静かに頷いた。 「四百年前、地下へと封じられたとされるもの。燃えるような赤い目と髪をした彼らは、凶悪で、力なき人間を殺し回った。彼らの残虐さに恐れをなした力なき人々から懇願され、僕らの一族は彼らを狩り、地底深くへ封じた」  言いながら彼はそうっと手を伸ばす。 「本当に、赤い」  白く細い指が陽向の額にかかる髪に触れる、と思った瞬間、陽向は飛び起きた。 「触るな!」

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