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第17話
私はあの人の着せ替え人形。
『思った通りとっても素敵、ピンクのレースにフリルがたくさんでお姫様みたい。こっちはどうかしら、オーガンジーのサマードレス。あなたによく似あいそうだから奮発しちゃった、胸元のリボンタイがお嬢様っぽくて上品でしょ?結べない?おいで、手伝ってあげる』
夢見るように潤んだ瞳は、けっして現実に焦点を結ばない。
子どもを通り越してどこか遠くを見る目……私が宿す淡い面影を透かし、幸せだった蜜月の過去を追憶していたのだと、気付いたのはもっと大人になってからだ。
当時は何もわからなかった。
なんでこの人はお金がないのに毎日お仕事帰りに服を買ってくるのとか、なんで髪を切っちゃいけないのとか、日々生活していく上で素朴な疑問を抱くこと自体固く禁じられていた。
今ならよくわかる、ほぼ毎日子どもに服を買い与えるシングルマザーの異常さが。
うちは母子家庭で、あの人はスーパーのレジ係とデリヘルのパートを掛け持ちして苦しい家計を支えていた。
衣食住にかける出費を極力削らなければいけないのに、子どもに贅沢させる余裕なんかあるわけないのだ。けれどあの人は、子どもにみすぼらしい服を着せる位なら食事を抜くのを選んだ。おかげで子どもの頃は腹ぺこだった。女の子は痩せてるほうが好かれるのよと、あの人はくどくど言い聞かせたっけ。
みすぼらしければ愛してもらえない。
醜く太ったら愛してもらえない。
理想の娘にならなければ見捨てられる。
あの人の中じゃ女の子はスカートを履く生き物だと決まっていて、その制約を破ろうものならヒステリックに怒り狂った。
フェミニズム団体が炎上しそうな時代錯誤な価値観のお仕着せ。
あるいは信仰、あるいは宗教。
あの人は服が汚れるのを嫌って、私に外遊びを禁じた。女の子の肌にキズが付いたら大変、走って転んだらどうするの?そのくせこっぴどくお仕置きするのだから矛盾している。
あの人の言葉は絶対。
あの人は私の神様。
うちは近所でも孤立していて、家族はあの人しかいなくて、親族とは交渉を断っている。というか、奇行が過ぎて見放された。性懲りなく借金を申し込んで踏み倒したのも原因。あの人がたまに見せてくれるアルバムには若い色男の他には私とあの人の写真しかなくて、祖父母をはじめとする親族は最初から存在しなかった。友人とは疎遠で訪ねてくる物好きもいない。
今なら当時の状況にぴったりあてはまる言葉を思い付く、「イロモノ」だ。
私達は周囲からイロモノ扱いされていた。呉哥哥なら役満リーチでトントン詰みだと笑ったかもしれない。
あの人の言うことが間違ってると、ご丁寧に教えてくれる人はだれもいなかった。
私はだから、あの人の言うことが全部正しいと思い込んで育ってしまった。
女の子は膝をそろえて座るのよ。
女の子はスープを音たてて飲まないの。
女の子はおうちで大人しく遊ぶのよ、お人形さんごっこやおままごとをしましょうね。
女の子は女の子は女の子は……日々エンドレスでくり返される理想の娘になる為のレッスン、洗脳に限りなく近い密室状況での刷り込み。
漠然と違和感が芽生え始めたのは幼年期の終わり。
テレビの中や窓の向こうの世界と、家の中で現在進行形で起こっている出来事のあまりのズレに、これは変だ、絶対おかしいと子供心に疑いが膨らみはじめた。
なんで週末に公園でピクニックをしないの?
なんで私は学校に行かせてもらえないの?
なんで|男の人《パパ》がいないの?
極め付けはこのフリフリヒラヒラ、動きにくいドレス。こういうのはよそ行きの服で、普段着にしてる子は少ないのだと知った。よっぽどいい家の子は別として。
シンクには油で汚れた食器や紙バケツに突っこまれたフライドチキンの残骸、ピザの空き箱がたまり、部屋の隅には埃が積もり、ぱんぱんに膨らんだ無数のゴミ袋に埋もれかけたうちが、ホームドラマでたまに見かける「いい家」だとはとても思えない。
電気代と水道代が滞っても、服と化粧品にかける金だけは惜しまず浪費する。経済感覚が完全に破綻をきたした、崩壊家庭の典型例。
テレビに映る女の子はデニムのオーバーオールにショートヘアで、まるきり男の子のような格好をしていてもなんにも言われない。それどころかちゃんとペアになった|両親《ペアレンツ》に可愛がってもらってる。うちの抽斗にはオーバーオールなんて一着もない。内緒で髪を切ろうものなら裸に剥かれて叩かれる。
両親の真ん中でにこにこ笑ってるあの子はきっと、勝手に服を脱いだからって、狭くて暗くて蒸し暑いクローゼットに一晩中閉じ込められたりしない。
鼻のそばかすが目立ち始めたからって、あからさまな幻滅の表情でファンデーションを塗りたくられたりもしない。
それでもあの人は私の神様だった。
クローゼットは棺のサウナ。
閉じ込められ、忘れられて、いずれ白骨化する。
家庭の醜聞をさす慣用句……スケルトン・イン・クローゼット。文字通り衣装棚の中の骸骨になるかもしれない私は肌でじかにこの世の不条理を痛感する。
ブラウン管テレビの表面に五指の腹をあて、あっちの世界に行けたらいいなと狂おしく望む。神様がいない虚構の世界、ソフトビニールのお人形で遊ばなくていい世界、ズボンやスニーカーを履いても許される世界……
「私」が「私」をやめても、あの人にぶたれなくていい世界。
あの人は嘘は言ってない。女の子は痩せてる方が好まれる、それは真実だ。ただ主語を抜いただけ。痩せてる方が実際あの人の好みだった。
栄養状態が改善されたら、直視したくない現実と向き合わなきゃいけなくなるから。
手足の肉付きが良くなれば、どうあがいたってごまかしきれないから。
『ごめん、なさい』
ささくれた嗚咽が喉にひっかかる。
一生懸命くりかえし謝罪して、上唇に付きそうな洟水を啜り上げる。
頬を伝う涙が口に入りこんでしょっぱい。膝がざら付くのは床にたまった埃のせい。
両手首はシルクのハンカチーフで一括りに縛されている。すべすべの生地は肌を傷付けない配慮。目の前に真っ暗い画面がある。テレビだ。
私は白いワンピースを羽織り、床に這い蹲っている。
手首を縛られてるから肘を支点に体重を支えなければいけないのが辛い。
『ごめんなさい……もうしません……ゆるしてください』
『窓から顔を出すなって言ったでしょ?』
『笑い声が聞こえたから……それで……楽しそうで』
たどたどしく、必死の形相で言い訳を口走る。
笑い声に釣られて窓を覗いたら、バスケットボールを持った男の子たちが歩いてるところにでくわした。私と同じ位の年齢で、みんなズボンとスニーカーを履いていた。
スカートを履いてる子は一人もいない。
気配を感じたのか、真ん中あたりを歩いてた子が突然振り向いた。慌てて顔を引っ込めたけど、見送ってたのがバレたかもしれない。視線が衝突した瞬間、男の子の顔が赤くなった……
『どこへいくか気になったの。わざとじゃない』
背後に張り付く気配に怯え、腹の底で膨れ上がるどす黒い恐怖が体内を圧する。
窓辺を離れた私は、何を考えていたのかその足で寝室へ行き、茶褐色の瓶から錠剤を出して噛み砕いてるこの人に勇気を出してせがんだのだ。
バスケットボールが欲しいと。
一緒に遊びたい、ただそれだけのささやかな願い。
新しいバスケットボールを持って行けば、きっと仲間に入れてもらえる。
スカートをはいてたって許してもらえる。
バスケットボールを貸してあげれば……だから……
『お友達がほしかったの……』
ひとりぽっちは寂しい。
家の中に閉じ込められてるのはいい加減飽きた。
私の世界は部屋とクローゼットしかない、部屋とクローゼットの行き来で一日が終わってしまうのはもうううんざり。
表を自由に歩きたい。
可能ならズボンとスニーカーを履いて、他の子たちと同じように。
『人魚の涙のような綺麗な綺麗な真珠よりバスケットボールがいいの?』
最大の裏切りを受けた、といわんばかりに大袈裟に嘆く様子に罪悪感が疼く。
唇を一直線に食い縛り、こくんと頷く。
『変な子。もったいない。女の子はみんな宝石が大好きでネックレスを欲しがるのに、あなたはいらないってそういうのね?あの人からもらった真珠のネックレスより、あんな野暮ったい、野蛮なボールが欲しいっていうのね?』
ねちねちと粘着質に責められ心が折れかける。
首をねじって振り向けば、後ろにあの人が立っている。どんな表情を浮かべているか、薄暗がりに沈んで判然としない。
私は小さく深呼吸し、長年胸に秘めてきた本音を打ち明ける。
『みんなと遊びたい』
『お人形遊びやおままごとは?』
『外へいきたい……お人形もういやだ……』
みじめったらしく啜り泣く。
だしぬけにたおやかな腕がのび、無防備な首元に真珠のネックレスがあてがわられる。ひんやりとすべらかな質感に喉が委縮。
『おもったとおり、よく似合うじゃない』
シルクで裏漉しした生クリームみたいな声がねっとりと鼓膜を這って理性をからめとる。
優しすぎて、ただただ怖い。
『大人になったらあげるって約束したわね』
弱々しく首を振って逃げようとするも、ますますキツくネックレスを締めて喉を圧迫。
首に真珠が食い込んで痛い。息ができずパニックに陥る。
『あなたも喜んでたじゃない、あれは嘘だったの?私をだましたの?悪い子ね……悪い子にはおしおきしなきゃ……』
『ッ……!』
おしおきの単語に身が竦む。
今日は何をされるんだろうと悪い想像が膨らんで心臓がばくばく言い出す。
腕にぐっと力がこもり、大粒の真珠が息の通り道を塞ぐ。まるでじゃじゃ馬ならしの手綱。ふいに手が引っ込んで、普通に息が吸えるようになる。
ぐったり突っ伏した私の後ろで、あの人がなにかブツブツ呟いてる。首はひりひりして頭が朦朧とする。
ワンピースの裾を大胆にひん剥かれ、パンティーが包む尻をまるだしにされる。
パンティーに手がかかり、じらすように引きずりおろす。
剥き出しの臀に外気がふれ、仰け反る喉に悲鳴が詰まる。
『なにするの……やだ……やめて……』
太腿に縮んだパンティーがひっかかる。歯の根がカチカチ音をたてる。あの人の手が、指が、ゆっくり尻をなでていく。
『うッあ、ひぁ!?』
いきなりそれがきた。
私には見えない尻の窄まりに、透明な粘液が大量にたらされる。ぬるぬるして気持ち悪い……ローション?
『まずは化粧水で下地を整えるの』
得体の知れぬ粘りけに生理的嫌悪が膨張する。あの人はてのひらでローションを受け、のばし、一粒一粒に丹念にぬりこんでいく。
『なにして……なんでぬるの……やだ、やだぁ』
頭はパニック、一挙手一投足が意味不明。この人の考えがまったくもって読めない。
駄々をこねるように訴え、往生際悪く肘で這って逃げるも足を掴んで引き戻される。手首はシルクのハンカチーフで戒められ、ろくに抵抗もできない状態。
窄まりを辿ったローションが膝裏にたまり、ポタポタ滴る。
『やだよ……へんなことしないで……べとべとやだ、やめて……』
『じっとして、いまから最高に可愛い女の子にしてあげる』
『ボールなんかいらない欲しがらない、だから』
艶やかな光沢帯びた真珠の表面が、固く閉じた肛門におしあてられる。
あの人の指が圧をかけ、ツプ、とめりこんでいく。
『いッ、あぁ』
電撃に打たれたように体がはねる。
排泄器官に異物を咥え込んだ激痛は壮絶で、全身の毛穴が開いて脂汗がふきだす。
なのにあの人は圧力をゆるめない。
本来女の人の胸元を飾る真珠のネックレスが、ローションにいやらしく濡れ光って尻に詰め込まれていく。
『あッあぁ、うぁッひゥぐ、あッあ!?』
『食いしん坊で欲張りな孔ね。ごらんなさい、どんどん飲み込んでいくわ。おいしそうに咥え込んでぱくぱくしてる……ネックレス、もらえて嬉しいでしょ?』
『も、やだ、やめて……お腹くるし……ッ、息吸えな……』
『なにをやめてほしいの?気持ち良さそうに喘いでないでちゃんと言いなさい』
『お尻に入れるの……ぐちゅぐちゅやだ、かきまわさないで苦しい……!』
体重を支える膝ががくがく震える。
尻からたれたパールが媚びるみたいに軽快にはねる。
あの人は私の尻に無理矢理パールを押し込んで、気まぐれに出し入れする。最初はやさしくゆっくり、だんだん激しさを増して……
『ふぁッああッあふッふあッ!?』
ツプツプ、入口に作り替えられた出口の抵抗を食い破り連続で真珠が沈む。
無理矢理抉りこまれた真珠がローションで潤んだ粘膜を容赦なく巻き上げ腸壁を擦り立てる。
直腸の粘膜をパールが削るたび、今まで体験したことない未知の感覚が爆ぜ散って前が熱くなる。
『ごめんなさい、ゆるして、いい子にするから……』
弛緩しきった口から涎と一緒にたわごとをたれながす、私がもらうはずだった真珠のネックレスが激しく抜き差し尻を犯す、最初は気持ち悪いだけ苦しいだけ、耐えているうちにそれが変化し被虐的な快感へすりかわる。
『よく似合うわよ。女の子はね、孔に入れられると気持ちよくなるの』
『ちがっ、やだ、ぬいて、おねが、ぅあっひぅっ!』
『違わないでしょ、おいしそうに頬張ってるのが証拠よ。どう、いっぱいもらえて嬉しい?』
『全然うれしくな、ひゃうっ!?』
人差し指が真珠を弾く。
『嘘はダメ』
『ぅ……れしい……』
腹を押し上げられて苦しい。
詰め物をされた尻がぱんぱんで苦しい。
助けてだれか、助けて神様、助けて……そこであっけなく候補が尽きる。
『!?ッあ、』
あの人が風切る唸りを上げて手を振り抜き、鋭い痛みが尻に爆ぜる。スパンキングの衝撃で胎内が振動、幼く未熟な前立腺に刺激が響く。続けざま尻を叩く乾いた音が連続、そのたび咥え込んだ真珠がズレてブレて知りたくなかった性感帯が開発される。
『ひぐっ、うぁっ、ひうぅ』
打擲に次ぐ打擲。
尻が震え、真珠が震える。オナニーの経験は何度かあっても、排泄器官に異物を入れたことはない。本来出す場所に挿入されて、勢いよく尻を叩かれ、下半身に渦巻く痛みと熱で次第に頭が痺れてくる。
『あっひあっふぁあっもう許して!』
『だめよ、ちゃんと女の子になりなさい。もっとたくさん、奥まで咥え込めるでしょ?』
『やだぁ、ネックレスぬいて……お尻痛い、なんかへんっ、で、お腹熱い……』
『全部食べきれたら彼が帰ってくる。素直でかわいくて一緒に遊べる娘を欲しがってたもの』
しとどにぬれそぼった前髪が邪魔くさく視界を遮り、前がゆるやかに勃ち上がっていく。
ずるぬちゃ淫猥な音を伴ってぬる付く真珠が抜かれては突っ込まれ、抜かれては突っ込まれをくりかえす。
捏ねられ、かきまわされ、煮溶かされる。
『あっああっひあッもっ無理死んじゃうっ』
自分が今されているこれが折檻の度を越した倒錯的な行為だと理解できるほど、私は世間を知らない。排泄感に似てもどかしい切なさが下半身を襲い、球をひりだした肛門が物足りなさげにひく付く。
膝に絡んだパンティーは既にぐしょ濡れ、カウパーとローションがたっぷり染みこんでいる。
お腹がじんじんする。
尻がぱくぱくする。
あの人が尻を打ち括約筋が開閉、肉を通した衝撃が一際感度を高められた粘膜へ波紋していく。
『うあっ、ああっ、ふあっやっああっあ!』
唐突に顎を掴まれ上向かされる。
真っ黒いテレビ画面に、はしたなく喘ぐ顔が映る。
尻に真珠を突っ込まれ、手首にハンカチを結ばれ、ワンピースをはだけてよがり狂う少年とも少女とも付かぬ痴態。
先走りが滲む前は一切さわってもらえずほったらかされ、尻への刺激だけじゃイキたくてもイけなくて、生殺しの苦しみが延々引き延ばされる。
ハンカチで括られた手首をじれったく掲げ、涙と洟水でぐちゃぐちゃの汚い顔で卑屈に懇願。
『おねがいほどいて、前さわらせて』
『女の子は孔を使って気持ちよくなるの。そっちはいらないでしょ』
股間で頭をもたげはじめたペニスは完全無視、私の顎を掴んで痴態がよく見えるよう正面に固定する。
だらしなく蕩けきったメスの顔。
そばかすだらけのあどけない顔はすっかりのぼせきって、閉じ忘れた口からねばっこい涎が滴り落ちる。
『はあ……はあ……』
快楽に濁った瞳に伸びた前髪が被さり、挿入の苦痛に引き歪んだ顔が一気に引き抜かれる脱力に崩れ、ずりおちた襟刳りから尖った乳首が覗く。
その間も執拗な抽挿が続き、「あッあッあぁあッあッ」と甲高い喘ぎ声がとまらない。
額を画面に押し付けられる。
頬が押し潰されて横に広がる。
ハンカチがもどかしい、即刻はぎとって股間をしごきたい。オナニーは禁じられてる。ローションを塗された大粒の真珠がずるぬちゃくちゅりと尻を犯し、ペニスが切なげに涙を流す。
『ごめんっ、なさっ、ボールいい、いらない、もうやっ、あッふぁあッこれ抜いて、お腹やだっお仕置きやだっ、お尻いじめちゃだめ、やッ、あぅあッくちゅくちゅやだあぁあぁッ』
何十回とひっぱたかれた尻が真っ赤に腫れて疼く。私には本来ある場所に孔がない、だから後ろを使うしかない。
いやだ、腹が苦しい。助けてだれか、助けて神様、助けて……
妈妈。
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