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Rubber Fetishism

「劉の客、ぶっちぎり変態が多いよな」 のっけから失礼なご指摘を頂戴した。 ネオン瞬く歓楽街の路地裏は身持ちの良くねえ娼婦や男娼のたまり場と化し、干上がった立ちんぼが壁にもたれだべってる。 ウリを始めてかれこれ半年。どうにか食いっぱぐれない程度にゃ稼げてるが、アガリが少ない日は残飯をあさるしかない。同じ場所で客待ちを続けてりゃ顔見知りもできる。 その夜声をかけてきたのは俺と同じウリ専で、界隈一の稼ぎ頭だった。 同年代の気安さが手伝ってか俺を見かけるたびなれなれしく絡んでくるが、飽きもせずくっちゃべる内容の大半が退屈な自慢話ときて、聞き流すのが苦痛だった。 「やった、1万ゲット。そっちは?」 「……3千ヘル」 「一日中突っ立ってんのに?悲惨だな」 「ほっとけ」 居心地悪さにもぞ付いてポケットをさぐる。客の忘れ物のモルネスが箱ごと出てきた。空きっ腹を煙でごまかす。 「なんで俺に付いてんのが変態ばっかってわかるんだ」 「見りゃわかるさ、正攻法で稼げないぶん他で埋め合わせしなきゃな。どんなプレイしたんだ?聞かせろよ」 「やだね」 「タバスコひたした綿棒で尿道ほじられた?」 「炎症起こすぞ」 「ベルトでぶってくれって頼まれた?」 「さあな」 「わかった足コキだ、中国人の得意技」 「なんでだよ」 「纏足はお前たちの風習だろ?指を内側に巻き込んで、その上から何重にもキツく布を巻き付けて、赤ん坊みてえなちっちゃな足に改造するって聞いた。それ全部足コキで男をよくするためとか、発想が鬼畜すぎてたまげたぜ」 「少なくとも今はしてねえ」 饒舌なガキの隣で煙草をふかす。俺の常連に変態が多いのは否定しねえが、客のプライバシーをぺらぺら垂れ流すのは論外。 思い出すのは昔の記憶、あの人が買ってくれたエナメルの赤い靴。めったに外出なんかしなかったが、近所の教会に行く時は必ず履かされた。成長に伴い足のサイズがでかくなっても、あの人は赤い靴にこだわり続けた。 『思ったとおりよく似合うわ。最高に可愛い』 あの人が喜ぶから、ほめるから、俺は足の痛みを我慢して赤い靴を履き続けた。 「どうしたんだよ、ぼーっとして」 しみったれた回想を打ち切り、冴えない現実に立ち返る。目の前にはずたぼろのスニーカーを突っかけた二本の足。 あの人の言うとおり赤い靴を履き続けていたら、最悪足の指が壊死していた。 くだらねえトラウマを蒸し返され、苛立ち紛れにフィルターを噛む。メンソールの香りが肺に回り、煙に乗じて鼻腔に抜けていく。ザーメンの後味をすすぐにはメンソール煙草が一番。 だしぬけに視界に影がさした。釣られて顔を上げりゃ、紙袋を携えた東洋系の男が突っ立ってた。 「あ」 「まだやめてないのか。体に悪いよ」 「……対不起」 咄嗟に煙草を揉み消す。 「移動しようか」 男が苦笑いで手をさしのべてきた。俺が去るのと入れ違いにガキはよそへいき、ダチと合流する。顔も体も貧相なくせに、不思議と客が途切れねえ東洋人の悪口で盛り上がるに違いない。 俺は男娼に向いてない。半年やってそれがわかった。まず客に媚びるのが苦手だ。話も上手くねえ。顔は並だしテクは未熟、何よりオーラルセックス専門なのが痛手。 とはいえ、誰にでも譲れない一線はある。 俺の場合はアナルセックス、どんなに札束積まれてもケツに入れられんのだけはごめんだ。理由は痛くて汚くて怖ェから。変な病気もらうのもお断り。ウリをはじめ僅か半年の間に、性病でくたばった男娼を腐るほど見てきた。 よって、本番ができない男娼をわざわざ買おうなんて物好きは性癖こじらせた変態に決まってやがんのだ。 その日は場末のモーテルに連れていかれた。普段から使っている場所だ。 フェラだけなら路地裏や物陰で手っ取り早くすます事も多いが、もっと込み入ったプレイをしたい時はチェックインする。当然客のおごりで。路上生活してる身からすりゃシャワーを使え、ベッドで寝れるのはラッキーだった。 「一週間ぶりかな?寂しかった」 「俺も。もうきてくれないかと思った」 「仕事が忙しくてね」 部屋に入るなりベッドに腰掛け、いそいそ手招きする。 戸口に突っ立ったまま、ぎこちなく室内を見回す。 このモーテルは中華街の娼館をコンセプトにしてるらしく、精緻な螺鈿細工の寝台の上じゃ月や扇子をかたどった暖色の提灯が緩慢に回り、壁に投じられる影絵が幻想的な雰囲気を醸し出していた。 「おいで」 俺を正面に立たせ、繰り返し二の腕をさする。 「ちゃんと食べてる?また痩せたんじゃないか」 「……まあ」 「だめだよ、成長期なんだから」 よくいうぜ、でかくなったら離れてくくせに。 心の中で舌打ちし笑顔を作る。男の隣に腰掛け、しばらく他愛ないお喋りに興じる。とはいっても話してるのは向こうだけ。仕事や家庭の愚痴をこぼしながら、俺の膝や太腿をいやらしくなで回す。 「うちの家内には恥じらいってもんがまるでないんだ、下着も全然色気がない。ああなっちゃ女としておしまいだね」 男は既婚者だ。夫婦仲は冷えきってるらしい。世の中にゃ誇張した身の上話で娼婦の気を引きたがる手合いがいるが、どのみち本当の事なんかわからねえしどうでもいい。 「プレゼントがある」 ほらきた、嫌な予感は往々にして当たる。絶望的な気分で見守る俺をよそに、男が持参した紙袋から取り出したのは悪趣味なブツ。 「……斬新なデザイン」 それは股間から尻にかけファスナーが縫い付けられた、漆黒のラバーショーツだった。 「こないだももらったしさすがに……」 「遠慮しないで、絶対似合うと思って買ってきたんだ」 ゴリ押しにたじろぐ。 実の所、エロ下着を貢がれるのは初めてじゃねえ。前回は透け透けベビードール、前々回はハートの穴からケツ丸出しのパンティーをもらった。 「付けてみて」 俺の客には変態が多いと改めて痛感。エロ下着を身に付けるだけで満足してくれるならお安いご用だ。あの人と住んでた頃は毎日女物の下着をはかされていたし、なんならちゃんと付けてるかチェックもされた。自分でスカートをたくし上げる恥ずかしさに比べたら、コスプレ位耐えられないことはねえ。 深呼吸で開き直り、ズボンと一緒に下着を脱ぐ。 「手伝ってあげるね。足上げて」 男の肩に手をかけ、大人しく片足を上げ穴に通す。肌にぴっちり張り付くタイトな生地が不快だ。 「ッ、」 黒い光沢帯びたショーツが下半身を包む。男が白い歯を見せスライダーを弾く。生地に密着したペニスに刺激が伝わり、上擦った吐息が漏れる。 貞操帯でも嵌められたみたいな拘束感と圧迫感。 「思った通り、よく似合ってる。最高にエッチだ」 「どうも」 「タマまできちんとしまえて偉いね。真ん中がもっこりしてるのがわかるかい、一番敏感な場所だよ。可愛いペニスがピチピチラバーにかたどられて恥ずかしいね?くびれまでハッキリわかる」 もったいぶってファスナーをなぞり、ちゃちなスライダーを上げ下げする。 早く脱ぎてえ。中が蒸れて気色悪い。 言葉責めに興奮した男が俺にのしかかり、ちゅくちゅく耳をしゃぶりはじめた。 「どんな感じか言ってみて」 「すげーぴっちり……中熱っ、気持ち悪い……あッ、んっく」 会陰を経てアナルまで続く無機質なファスナーは、単なるお飾りにとどまらない実用性を備えていた。 今すぐ脱ぎたい本音をよそに、前が固さを増していく。男が俺の腕を引っ張り、膝の間に抱き込む。 「あッ、ぁッ、んっふ」 ぐりぐり股間を押され、くにくに乳首を揉まれる。 「下着の上から捏ねられて感じてるのか、いけない子だね。直にさわってほしい?」 「嫌だ、さわ、んな」 震える手がファスナーに導かれる。唇を強く噛み、辛うじて首を横に振る。すると男は目を細め、ショーツを力強く引っ張った。 「!!っぁ、」 思いきり食い込んだ。衝撃に蹲る暇も与えず体を持ち上げ、俺を片膝に跨らせる。 「ごらん」 壁には等身大の鏡がかかっていた。反射的に顔を背けるも、顎を掴んで正面に固定された。 「黒いからわかりにくいけど、濡れてないか?」 「あッ、や、ンっふ」 ピンクに色付いた乳首を搾り立てる一方、小刻みに膝を揺らし会陰を突く。鏡が暴き出すのは男の膝に乗る俺。身に付けてるのはファスナー付きラバーショーツ一枚、スライダーの金具がちりんちりん動きに合わせて弾む。 俺を膝の上でもてあそぶ男がショーツのへりに指を掛け、限界まで引っ張り、離す。 「あぁッ!」 伸びたラバー生地が尻を打ち、マゾヒスティックな痛みが爆ぜる。 「スパンキングロデオはお気に召したかな」 「あッ、ふッ、やめっんッぐ、ッ」 パチンパチン、ケツ叩きと同期して揺すり立てられたんじゃたまらねえ。鏡に映るガキが涙目で仰け反る。 『あなたは女の子よ。孔を使って気持ちよくなるの』 開く。閉める。開く。閉める。開く。閉める。 「暴れるとジッパーが肉を噛む」 「くッ、ふ、っ」 「秘密の窓だ」 ショーツの中心に生じる裂け目、忙しなげに行ったり来たりするスライダー。ちょっとだけ出しちゃしまいしまっちゃ出す繰り返し。 「ッは……、」 膝裏に力が入らずカク付く。足の指を巻き込んで耐える。辛抱たまらなくなった男がじれったげにズボンを脱ぐ。 「んッむ」 おずおずと口を開け、ずんぐりした亀頭を含む。カウパーの苦味に吐き気に催す。 頭を空っぽにする。雑念を散らす。裏筋に舌を這わせ、カリ首を吸い立て、鈴口に滲む汁を有難がって啜る。股間が窮屈で苦しい。こみ上げる切なさに自然と内股になっていた。 男の手が後ろに回り、ラバーショーツに強調されたヒップラインを辿りゆく。 「女の子の下着を付けると、身も心も女の子になるんだよ」 『そうよ、世界一可愛い女の子になるの』 十分勃起した頃合いを見計らいひと休みをすれば、鋭い叱責が飛んできた。 「誰が休んでいいと言った?」 別人さながら豹変した男に再び組み敷かれ、冷や汗をかく。 「ケツは嫌だ。洗ってねえ」 「病気を持ってるかもしれないのに挿れないよ」 男がコンドームを装着する。極薄の膜の内側でペニスが脈打ち、膨らむ。 「!!~~~~~~~~~~~ッぁ」 ラバーと密着した会陰を凄い勢いでペニスが擦りたて、強烈な性感が爆ぜる。 「んッ、ぁッ、んな強くしたらッ、ぁっ止まらねッ、ああっ」 ラバーショーツに蒸らされた媚肉は一際敏感になっていた。男が腰を打ち込む都度、ファスナーの金具がちりんちりん鳴り響く。 「エッチな匂い。下ごしらえは万全、すっかり出来上がってる」 ジッパーが布を噛む音が響き、アナル付近まで切り込みが走る。直後、白い湯気と共にカウパーの濁流に塗れたペニスが飛び出す。挿入を回避しようと寝返りを打ち、また組み敷かれる。 「ぁっ、そこゴリゴリッ、変ッ、あッあ」 コンドームに包まれた剛直がカウパーぬる付く会陰を滑走し、ベッドが壊れそうに軋む。 「あッ、ふッ、んっぐッ、はッ、ン〜~ッ」 「挿入NGでも素股ならかまわないだろ。お誂え向きのショーツを用意したんだ、楽しませてくれよ」 尻と腰があたり乾いた音が爆ぜる、黒くテカるラバーの溝から覗く肉が捲れ赤い粘膜がうねる、シーツにぱたぱた落ちる雫は汗と涎とカウパー、男が俺の竿を掴んで先走りを全体に塗す、睾丸とペニスを揉みしだかれ射精欲が炸裂する。 「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ぁぁあ」 ぐったりした俺を後ろから抱き締め、男がねだる。 「次ははいてくるんだぞ」 事後、シャワーを浴びてモーテルを出る。使用済みのショーツは丸めてポケットに突っ込んだ。 エナメルの靴とラバーショーツ、はかされるならどっちがマシだ?帰り道で悩んだが結局答えはでず、モルネスを喫った。

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