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呼び出し

 閑さんが生徒会室に訪れた今日、俺はまさにその人に呼び出されていた。 「……何で生徒会室なんか来たんですか」 「言ったでしょー? 伊吹に会いたかったの」 「毎晩のように会ってるじゃないですか、アンタの呼び出しで」  ベッドの上でパソコンを弄る閑さん。明日提出のレポートがあるらしい。  普段はかけない黒縁の眼鏡。紫月と同じ、でもアレより少しレンズが薄い。 「『現生徒会長』くんさぁ」  閑さんの口が釣り上がる。よからぬ事を考えている時の癖だ。課題に集中すればいいものを。俺も集中して数学の宿題をやりたい。 「あれ、自毛だよねぇ?」 「らしいですね」 「本人はそのことなんて言ってるの?」  しつこい。紫月に乗り換えるつもりなんだろうか。俺は別にいいけど、あの若干ヤンデレじみたナイトがいる限り、やめておいた方がいいと思う。夜道どころか白昼堂々と刺されかねない。 「フランス人の血が混じっていて、そのせいで髪の色素がすごく薄くてああなったって」 「へぇー? 確かに目、緑色だもんねぇ」  綺麗な目。宝石の翡翠みたいな目。初めて見た時、俺はその目に魅せられた。透き通って、俺とは正反対。穢れも絶望も、経験はあれどそれに囚われたことがないような、澄みきった目。 「そっか、それで通ってるんだ」 「?」  閑さんの言葉の意味がわからず首をかしげると、閑さんは「お前は正直だねぇ」と言った。 「好きだよ、お前のそういうトコロ」 「……そうですか」  あんたに好かれても微塵も嬉しくないですけどね、とは言わなかった。  俺のその言葉が嘘なのか本当なのか、判らなかったから。 「……さぁーてと……終わったー」  その言葉にビクッとする。俺がここに来ている理由を思い出したから。俺はここに、宿題をしに来たのでも雑談をしに来たのでもないのだ。 ヘアピンを外す。勉強は中断だ。 「おいで、伊吹」  これから俺は、この人の道具になるんだから。

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