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第1話

「嘘つきは嫌いだよ」 「だからごめんって言ってるだろ?」  喧嘩した。  それは昨日のことだ。  久しぶりに二人で食事が出来そうだったから、先に帰れる天音が料理を作って待っていてくれた。なのに俺・舞人ときたら、会社を出る寸前で後輩のミスが発覚。それを一緒に付き合ってカバーしてやったら午前様となってしまった。  食事は片づけられ、天音はもう寝室で眠りについていた。 付き合って一年。同棲して三ヶ月。 ふたりの距離がなかなか縮まらない気がしてるのは俺だけだろうか……。 そして最初の言葉にたどり着く。  最初は素直に謝ろうとしていた。けれどあまりに無視され続けて言われた言葉がそれじゃあ口答えしたくもなるだろ? 「そろそろさ、僕たちはふたりのこと考える時期なのかな」 「ぇ、何それ。何が言いたいわけ?」 「僕はここのところ随分放っておかれてる気がするんだけど、それは僕の気のせいなのかな」 「そ……んなことは……」  ないと言いたいところだが、その通りだったから言い返すことが出来ない。 「今日、帰って来たら話し合おう」 「……やだ」 「ぇ……」 「……」 「俺は別れないからなっ。話し合いはするっ。だけど別れ話はしないっ。OK?」 「……とりあえずね」  それはこっちの出方次第と言った顔をされてグッと唇を噛みしめる。 俺の交際相手である天音はイラストレーターとしてピンで働いている。儲けもデカいが自分で何もかもしないといけないから俺はそっちの方が大変だと思っている。 ●  俺と奴とが知り合ったのは、何かのイベント後の立食パーティーだった。  カクテル片手に会場をうろついてると、バルコニーに出て行く奴の後ろ姿を見かけた。 知らず知らずにその後を追って行くと振り返ったその顔を見て一目惚れしてた。 なんと言っても一番印象に残ったのは左目の泣きぼくろだった。ちょっと垂れた目を潤ませて半分開いた唇にヤられた。  酔っていると言われても否定出来ない。 クラクラした。 相手は男なのに。 いや、今まであまり性別で区別したことはない。 男だろうが女だろうが、欲しいと思ったものは手に入れる。 そんなやりかたをしてきた俺が下手に出ても欲しいと思った。 「酔ってるの?」 「……」 「何で泣いてるの?」 「泣いてませんよ」 「だって目が潤んでる……」 「潤んでると泣いてるんですか?」 「厳密には違うけど、そう見えたから」 「……」 「どうしたの? 何か嫌なことあった?」 「別に」 「初めての奴には話せないか。ごめん」 「いえ」 「……」 「……」 「でさ、お願い」 「……何ですか?」 「俺と付き合ってよ」 「ぇ……」  驚いたと思ったらその瞳からポロッと涙が零れ落ちた。それにまた驚いて手の甲で涙を拭うとキョトンとされる。 「俺、あんたと付き合いたい。立候補する。考えて」 「えっと……。僕あなたのこと何も知りませんけど……」 「俺もあんたのこと何も知らない。知らないけど、いいなと思った。思ったから付き合いたいと思った。それじゃ駄目?」 「駄目」 「ぇ……」 「そんなよく分からない人とは付き合えません」 「そんなこと言わないで。ねっ?」 「……」 「ほら、俺結構イケメンでしょ? 背だってあるし、体格も悪くないと思うし、女の子からは人気あるほうだけど……」 「女の子には、でしょ?」 「あっ、うん、まぁ」  ちょっと言い過ぎたかなと思っていると怪訝な顔で腕組みされた。 「僕は男ですけど、そこのところ分かってます?」 「分かってますよ?」 「それで、そんなこと言うんだ」 「うん」 「僕と寝られるんだ」 「うん」 「だったらキスしてみてよ。今ここで」 「ぇ、いいの?」 「してみて」  答えはYES。 バルコニーにカクテルのグラスを置くと端に追いやって抱き締めながら唇重ねる。 「んっ……ん! ばっ……かっ! ホントにするなんて…………!」  唇を重ねて舌を差し込んだところでドンッと胸を押されて阻止された。 「なんで? あんたがしてみろって言ったんだよ?」 「言ったけど……。ホントにする!?」 「俺の勘は正しい。間違えたことはないよ」  ギュッと肩を抱くとそのまま抱き締めて「だから泣かないで」と無意識で言っていた。  誰がこいつを泣かせたのか。 ちょっとした怒りもあったと思う。抱き締めて抗われても抱き締めて「俺が……俺だったら泣かせない」なんてチープな台詞を口にしていた。 「何っ……。何なんだよ、あんたはっ……!」  半分泣きながら言われてビンゴ! と自覚する。 つまりは彼は誰かに振られた。 それを運良く直後に俺が手に入れる。そんなところだと思った。 ただし手に入れるからには、俺の方が良かったと言わせてみせると意気込んでもいた。 「部屋、取るからさ。そっちに行こうよ」 「ヤだよっ」 「うらはら? 嫌って言っても連れて行くから。もう降参して」 「ぅぅぅっ……」  涙が頬を伝っているのか。 彼は俯いたままその身を委ねてきた。 俺はすかさず携帯で部屋をキープするとフロントに電話してキーを手配してもらいながらエレベーターに乗り込んでベッドまでgoした。  バフンッと相手をベッドに押し倒すと涙で塗れたその頬を舌で舐め清める。 「やめっ……」 「何で? 今夜あんたは俺のものだ」 「ぅぅっ……ぅ」 「俺は悲しませないよ? それに絶対満足させるっ」  ググッとモノが大きくなるのを自覚しながら言葉を続けた。 「誰を好きだったとか、誰に未練があるとか、そういうことは聞かない。だけど俺といる時は俺のことだけ考えてよ。絶対損はさせないからっ」  相手の上着を脱がせながら答えなんて待たないで言葉を続けた。 嫌でも良くても突っ込むつもり。強姦とか言われたらちょっと侵害だな……なんて思いながら、裸に剥いていった。  上下裸にして靴下だけは脱がせないまま跨がりながら自分も裸になる。 「するの? 本当にするの?」 「うんっ。俺たち、そうならないと始まらないしね」 試読終わり

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