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15.終わらない姉の嫌がらせ

 あの夜以来姉は僕に直接乱暴して痛めつけることにはもう満足したのか、見張りの男は居なくなったのでほっとした。それでも夜中に小さな物音や悪夢で目をさますことが度々あった。  そしてその後は性的な嫌がらせを受けることはなくなったが、姉からの小さな嫌がらせは止まなかった。 夕食は姉夫婦と共に食べるのだけど、僕だけ違うメニューが出されたりする。しかも、僕が苦手なものをわざと出されることはざらだった。残すわけにも行かないので我慢して食べる。  ある日、フェリックスが公務で出掛けていて屋敷に居ない日にこんなことがあった。その日の夕食は僕と姉しか食べる人がいないのに、ものすごい料のご馳走が用意されていた。 「お姉様、今夜はどなたかいらっしゃるんですか?」 「どうして?」 「だって、こんなに料理が……」 「たまにはあなたに美味しいものを食べてもらいたくてね」 (え? なぜ急にそんなことを……?) 「さあ、食べましょう」  そうして二人で食べ始めたが、僕は妊娠していてお腹も大きくなってきており、胃が圧迫されてあまりたくさんは食べられない。姉も元々それほど食べる量は多くないので、料理はほとんど残ってしまった。 「ごめんなさいお姉様。せっかく用意していただいたのに悪いのですがもう……僕、お腹がいっぱいです」  僕がそう言ってナイフとフォークを置くと姉は眉を吊り上げた。 「え? なんですって?」 「あの……ですから……もう……」 「私がせっかくあなたのためを思ってこんなにお料理を用意させたのに?」  姉は席を立ち、僕の方にやって来た。そして皿の上のフォークを取り上げるとおもむろに肉を突き刺し、僕の口に持ってきた。そしてグイグイと押し付けてくる。 「ちゃんと食べないとお腹の赤ちゃんが大きくなれないわよ?」 「うっ……んぐっ!」  僕は仕方なく口に入れて咀嚼する。 「あ、ありがとうお姉様。美味しかったです。でももう本当に……」 「まだあるわよ~? ほら、クネーデルよ。あなたはお芋が好きだったわよねぇ?」  そう言ってまた姉はフォークでクネーデルを突き刺して、とんでもない量を一度に口に押入れてきた。 「やめっ……! んっむぐ……ぅ」 「ほらほら! 食べなさいよ! ちゃんと噛まないとだめよ。お腹の赤ちゃんに栄養をあげないとね!」 「んっ……うう……」  吐き出したいけど、姉が後ろから僕の顎を無理やり押さえつけているためそれも出来ない。僕は涙目でなんとか噛んで飲み込もうとしたけど気管に入ってむせてしまった。口に入れていた物を床に吐き出してしまう。 「げほ! げほげほっ!」 「あ~あ~、汚らしいこと! どういう教育をされてきたのかしら? そんなことで生まれてきた子どもを育てられるのかしら?」 「ぅうっ……酷い……げほっ」 「何よ。私が酷いって言うの? あなたに食べ物を恵んでやってるのが誰なのかわかってて言ってるのかしら。こんなに食材を無駄にするなんて!」 「……ごめんなさいお姉様……残してしまってごめんなさい……」 「謝るなら作ってくれた料理人に謝ることね。やれやれ、あなたが吐いたものを見たら食欲が失せたわ」  姉は言うだけ言って去って行った。  あとに残された僕は給仕に食べ物を残したことや床を汚したことを謝罪した。謝られた使用人たちは皆冷ややかな目で僕を一瞥すると無言で片付けを始めた。  僕にはここ以外に行ける場所もないのでこのような仕打ちにも耐えるしかないのだった。  姉とはその後口をきいていない。もうこちらから話しかけることは無いし、向こうもだんまりだ。フェリックスは夜這いの件も姉の嫌がらせも知らない(姉はフェリックスに見えないところでしか嫌がらせをしない)ので、今まで通り勝手に僕に贈り物をしたり、気まぐれに過ごしている。  そんなある日、この屋敷に客がやって来ることになった。これまでにも勿論来客はあったが、今回は一段と物々しい雰囲気だったので一体誰が来るのかと僕でも疑問に思うくらいだった。  使用人の少女ロッテに尋ねてみた。 「とても騒がしいけど、一体誰がお見えになるの?」 「はい、今夜デーア大公様がお見えになるそうです」 「デーア大公が……へぇ……」  デーア大公は、ここクレムス王国の国王陛下の弟君だ。なるほど、それでこんなに大仰に準備がされているのか。  でも居候の僕には関係がないので僕はまた図書室で本を読むことにした。夕食の際には口を開くなと姉に念を押された。別に僕は話したいことなんて何もないので構わなかった。

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