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fooling around

スワローはアンデッドエンドの夜が好きだ。綺麗で薄っぺらくて本当のことなんかいっこもない。 「ここがスワローの家?案外狭いんだね」 「ご不満か?」 「ストレイ・スワローの巣ならもっとバブリーでゴージャスかと思った」 「野良なら巣なんて作らねーよ、鳩じゃねーんだ」 「だよね」 隣でしたたかに酔っ払った女が笑い転げる。名前は知らない、クラブで適当にひっかけてきた。 別に誰でもよかった。 選んだ理由をしいてあげるなら女は綺麗なピンクゴールドの髪をしていた。 どうせこの世の大半は紛い物でできている、それを上手くごまかせるなら一体何の問題がある? たとえ女が甘ったるく媚びた声でストレイ・スワローと呟くたび胸が疼いたとしても、だ。 保安局に正式登録した稼ぎ名はヤング・スワロー・バードだが、巷ではストレイ・スワロー……野良ツバメの方がずっと通りがいい。 売られた喧嘩なら喜んで買ってやるが、一夜を過ごす女の可愛い間違いを許せないほどスワローはガキではない。 ただ、胸がささくれだつ。 その感覚が虚しさとか寂しさとか名付けられるものだと、スワローは断じて認めない。 「今まで何人女を連れ込んだの、色男さん」 「いちいち数えてねーよ、片手で足りる位」 「割と少ないのね」 「モーテル行くことの方が多いから」 「私は特別?」 「そうだよ」 もちろんでたらめだ。 女をモーテルに連れ込む理由は単純、そっちの方が手間がかからないからでデスパレードエデンの部屋にお持ち帰りすることは少ない。 よっぽど気に入った女や酔っ払ってたら別だが、口うるさい居候に気を遣って一応セーブしているのだ。肝心の本人に全然伝わってないのが癪だが。 哀しいかな、スワローはやることなすこと裏目にでる星の下に生まれたらしい。 「はっ……熱い」 玄関ドアを開け放ち、縺れ合ってなだれこむなりキスを求められる。 舌で口内を掻きまわしながらリビングに移動、じれったげにスタジャンを脱ぎ捨てソファーで事に及ぶ寸前に思いとどまる。 黒いタンクトップとジーンズの薄着で女を引きずり歩き、片割れが留守にしている部屋のドアを蹴り開けた。 「意外と綺麗じゃん」 「無駄口叩かず喘いでろ」 感心する女を荒っぽく押し倒す。マットレスが弾み、甲高い矯声を上げはしゃぐ女を見下ろしタンクトップを脱いでいく。 兄が使ってた清潔なベッド、そばの棚には本とガラクタが並んでいる。箍が外れた勢いで女に襲いかかり、欲望で蒸された肌を蹂躙する。 「あッ、やん、スワロー痛ぁッ」 片方外れた肩紐をずりさげキャミソールを脱がし、ピンク色の乳嘴を噛む。 強く噛んでは優しくなめる繰り返しで煽りたて、右手を股に持っていき、縦筋に沿って陰唇をなぞりだす。 「ぁっ、ンッ」 クリトリスの包皮を器用に剥き、指の腹で揉み潰せば、乳白色の濃厚な蜜があふれてくる。 プッシーをプッシュするのは昔から得意だ。上と下、乳房と股間、どちらもせっせと可愛がってやる。 「あンっ、ふぁっ、スワローそこっもっとぉ」 「どうされたいから言わなきゃわかんねーだろ」 「もっと激しく、おっぱい揉んでッ、ふぁあっあ、ンっあ、ぐちゃぐちゃにしてェ」 発情期のメス猫みたいな声。 足を掴んで上げさせ、腫れたクリトリスを吸い立てる。舌を出し入れすれば溶けたバターの味がする。 「すげえ滴ってる」 スワローはクンニを始める。 女の股間に顔を埋め、反応を見ながら陰唇をはみ、なめ、窄めた舌先で粘膜をくすぐりだす。クリトリスを丹念に舐め転がし、唇で摘まんで育て、陰唇に滲む愛液をじゅるじゅる啜る。 ぴちゃぴちゃ濡れた音が闇に響き、女が息を荒げてシーツを蹴る。 「やっ、はぁんっ、ぁあっイイっすごっ、イっちゃ、もっとクリめちゃくちゃにして」 涎をたらして悦ぶ女。前戯で蕩けきった顔。 窓の外には疎らなネオンが瞬き、カーテンの隙間から忍び込んだ明かりが情事を染める。技巧をこらした指遣いと舌遣いはいともたやすく女を天に昇らせ、肉欲の泥沼に堕とす。 「はしたねェな、また膨らんだんじゃねえの」 クリトリスを重点的に責めればしとどに蜜がしたたり、陰毛を尖らせる。片手で乳房をこね回し弾力を楽しみ、ふと違和感を覚えた。髪の根元が黒い。 女の地毛はブルネットだった。ネオンが透かす股間に生えた陰毛も同じ色。 スワローは幻滅した。 「どうしたの?」 髪の色なんか金でも黒でも茶でも銀でも赤でもどうでもいい、肌の色なんて白でも黒でも茶色でも黄色でもなんでもいい。 人間だろうがミュータントだろうがかまやしない、スワローが女に求めるのは嫌なことを忘れさせてくれる乳と尻だけだ。 なのになんで、今夜に限ってないものねだりしちまったんだ? アイツと同じ髪色の女を持ち帰っちまった? 「……染めててがっかり?」 おそるおそる聞いてきた声で我に返る。目を上げれば女がいたたまれず俯いていた。シーツで胸元と股を隠し、スワローの機嫌を窺っている。 何やってんだか。 「ははっ!」 急に何もかも馬鹿らしくなった。 なあ見ろよスワロー傑作じゃないか、興ざめなのはどっちだえェおい?兄貴の代わりに兄貴と同じ髪した女を持ち帰って、地毛の色がわかった途端に萎えちまったか?もうできねえとかしまらねえことぬかすんじゃねーだろな? 「突っ込んじまえば一緒だろ」 「あッ、ンふあ」 兄のベッドに女を組み敷いて激しく貪る、前とは比較にならない勢いで乳房を揉みしだきへそを吸い立て内腿をなめ回す、ぬかるんだ陰唇に指を突っ込んで粘膜をひっかく、蜜をたっぷり絡ませた指を抜き差しして喘がせる。 「あっ、やっ、すごっこんなの初めて、やだ怖いっスワローやめ、ふぁっあ!」 「イケよ。イッちまえ。ケツふって膣シメて、上と下の口からよだれたらして飛んでけよ」 指を一本から二本、三本へと増やしぐちゃぐちゃ水音をたて回す。 長くしなやかな指が女性の前立腺と呼ばれるGスポットを的確にとらえ、その一点を執拗に責め立てる。 「ぁッ、ふぁっンあっ、あっあっぁぁ――――――ッ」 Gスポットは中指を膣に全部入れ、第二関節を曲げたあたりにある。 中指を根元まで咥えこんだ肉厚のヴァギナがてらてら光り、絶頂に達した全身に痙攣が行き渡っていく。 「まだ前戯だぜ?」 「お願い休ませて……どうにかなっちゃうから……」 指の栓を抜くなりプシュプシュ潮を吹く女。 スワローはやめない。やめるわけがない。嗜虐の愉悦を帯びた眼光で挑発的に舌なめずりし、ジーンズのジッパーを下ろしていく。エクスタシーに溺れる女の痴態を目の当たりにし、股間は勃起していた。 「んっ、はぁ」 喘ぐ口を無理矢理塞いで舌を吸い、割り開いた足の間に押し入る。 赤黒く猛ったペニスを陰唇にあてがい、愛液のぬめりに乗じて一気に挿入していく。 「~~~~~~~~~~ぁあ」 「っ、キッツ。イイ物持ってんじゃん」 挿れただけでまたイくのがわかった。素直な体、素直な反応だ。 食いちぎられそうな締め付けに一瞬顔をしかめ、刺激に酔ってめちゃくちゃに腰を使いだす。 「ぁンっ、ァああッ、ふぁっンあ」 両足を掴んでこじ開けるやいきりたったペニスを浅く深く抜き差し、Gスポットを掠めて滑走する。 肉と肉が打ち合って汗が飛び散り、窓からさしこむネオンのお零れが引き締まった裸身を染める。 セックスと喧嘩の最中だけは余計なことを考えずにすむ。 たとえば今ここにいないアイツの顔とかふざけた罪悪感とか会いたいと焦がれる気持ちとか、くだらねえもん全部うっちゃって快楽に身を委ねていられる。 アイツのベッドで女を抱くのは当て付けだ、帰ってきたらせいぜいカピカピのシーツにがっかりすりゃあいい。俺が女とヤッてる匂いを付けて、汚ェ汁をたっぷり染み込ませて、清く正しい童貞のお兄様をせいぜい哀しませてやるんだよ。 「っは、くっ、あははははははは!」 「あっはンっ、あっやっあぁッよすぎ、もっやっスワローんあッ、頭おかしくなっちゃッふぁあ、イッちゃ、すごっ、さっきからイきっぱなしでっ」 脳裏に像を結ぶのは今頃神父サマとよろしくやってる兄の面影、俺の稼ぎ名を間違えた馬鹿野郎の顔。 俗っぽいネオンが瞬くアンデッドエンドの夜、よだれをまき散らし喘ぐ女の乳が下品に揺れる、そのしこりを揉みまくり突いて突いて突きまくる。 兄がいなくなり半年余り、ベッドに敷かれたシーツは冷え冷えしていた。気の迷いで寝転がり、匂いを吸い込んでも物足りない。 昨日はここでオナニーした。 自分でヌくのは久しぶりだ、でてくまでアイツにヌかせてたから。 兄貴の部屋の兄貴のベッド、その真ん中でジーンズを下ろしペニスを擦り立てるとむずむずした。一人じゃ上手くデキないのは何でだ、思春期に入る前からずっと兄貴に手伝わせてたから? セックス上手のオナニー下手、それがスワローだ。 兄貴がいる間は自分でやる必要なんかちっとも感じなかったから、マスターベーションに不慣れで不器用な事実を恥じ入ることさえなかったのに。 キツく目を瞑り手に意識を集中し、躍起になって擦り上げてもなかなかイけず、もどかしさが募るばかりだった。せめてモッズコートだけでもありゃ違ったか、ドッグタグだけでも残してってくれたら……。 「あっ、ぁンっ、はぁっンあっ、あっあッあ」 汗みずくで仰け反る女を容赦なく追い立て、幾度も絶頂を味あわせる。 兄への怒りを欲望にすり替えて、粘膜すべて性感帯と化した膣の奥に叩き付ける。 「またイったのかよ、だっらしねェ顔。下がびしょびしょじゃん」 「スワローっ、ぁっスワロー、きて」 赤ん坊のように両手をのばしておねだりする女にこたえ、向い合わせでかき抱く。とろんとした声が耳元で囁く。 「愛してる、スワロー」 兄とはまるで別物の声がスワローの芯を冷やす。 「俺も」 心にもないセリフを吐き、一気に引き抜いた反動で倒れこんだ女をひっくり返す。細腰を掴んで引き立て今度は後ろから、ぱっくり開いた陰唇にペニスを突っ込む。 「――――――――――――――ッ!!」 「バックの方が好きみてェだな」 シーツをかきむしり悶絶する女、仰け反るたび背中にばらけるピンクゴールドのきららめき。雌犬の如く振り立てる尻をひっぱたきガツガツ突きまくり、太さ長さともに申し分ないペニスでみだらな孔を塞ぐ。 根元が黒いピンクゴールドの髪を掴んですぐ放し、物欲しげにパク付き、よだれをたらす下の口に自分を食わせる。 「ケダモノとヤッてるみてえ」 アイツは今ここにいねえ、神父にシスターにガキども、ボトムの教会付き孤児院の食堂に集まって楽しくトランプでもやってやがるんだ。 だったら楽しんだっていいだろ、別に。 お互い様だよな、ピジョン? たとえ無意識に締まりを比べちまうとしても、目の前でよがり狂って涙する女を身代わりに見立てちまうとしても、それは全部俺を怒らせたお前が悪いんだぜピジョン。 お前がこの部屋をからにするから。 俺たちの巣をでてくから。 「ひァんっ、ぁっあぁッ死ぬっ、もっやっホント無理っ死んじゃッ」 振り返り懇願する女の耳朶に唇を寄せ、腰を休めず意地悪に囁く。 「死ねよ。見ててやっから」 夜はまだ明けず闇は濃くなる一方だ。 隣のホテルから差し掛けられるネオンが部屋を淫靡に染め、兄のベッドで女を抱くスワローの、嫉妬と苦悩に歪む表情を暴き立てる。 裸の胸元で汗と一緒にはねるドッグタグ、しっとり濡れたイエローゴールドの髪の下で切羽詰まった瞳が瞬く。 「ぁ―――――――――――――――――――――ァッ!!」 「!ッ、」 今すぐ教会に殴り込み兄をかっさらいたい本心と泣きっ面さげて詫びに来るまで指一本動かしたくない見栄がせめぎあい、やるせない思いに駆り立てられて精を放った。

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