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離婚成立
「ローレンツォ、君と離婚することにした」
あー、いま流行りだなぁって言うのが僕の感想だった。
「理由は何でございましょう?」
中世ヨーロッパ風異世界転生物語の主人公としているわけじゃなく、離婚されて慰謝料貰って若くして隠居する当て馬的な役どころのローレンツォ・モンブラン、モンブラン公爵家の公爵夫人が僕だった。
公爵夫人! 男なのに、夫人!
自由恋愛の自由呼称の世界観。
身分さはあるけど、性別差は無いと言うモラルに欠けてるのか、最先端なのか微妙なところだった。
「性格の不一致だ!」
「そうですか、性格の」
性格の不一致と言うほど顔を会わせたことも無ければ、夜を共にしたことも無かったけど。
「君は非道だ! 優しくない! そのキツイ顔も瞳の色も気持ち悪い!
君の為に用意した服をデザインが気に入らないだの、安っぽいだの言って引き裂くとか、使用人が出した食事を家畜の餌と言って捨てたそうではないか!」」
非道、ですか? 優しくない? 政略とは言えこの公爵家に嫁して来て早一年、今着てる服以外僕が持ってるのは数枚の下着と寝間着だけですし、そのダサいデザインの服とか見た事も無いですけど? 侍女の一人もつかず食事は使用人たちの残り物で残飯だし家畜の方がまだ良い食事をしてますが?
今まで僕の服装すら気にしてみた事が無いと、よっく分かりました。
公爵家の馬番より良く言えば質素、悪く言えばみすぼらしいこの服装に、貴方は何も思わないって事ですね。
この世界がちょっとした生活魔法で動いている故に、契約魔法を使う事が日常的で婚姻も契約魔法で縛られていた。
そう、僕にとってはまるで奴隷のように。
離婚して平民になった方がもっと楽に暮らせますし、転生者である僕に庶民の暮らしが出来ないはずがありませんからね。
それに、公爵家との政略結婚に至った理由も忘れて離婚って言うなら、喜んで受け入れますよ。
「畏まりました。
離婚を受け入れます」
この婚姻は政略で、家格は釣り合わないけど僕の能力を外に出したくない王室からの提案だったはずだけど。
僕を手放してくれるなら、こんな困窮した生活を送らなくてすむなら、ひゃっほーって叫びたいくらいの気持ちだった。
無表情に徹して、婚姻の契約解除を進めてもらう様に言うと、今までの僕の贅沢と使用人への暴行として慰謝料は支払わないと言われた。
「……」
「な、何か?」
「いえ、暴行ですか。
では最後に使用人たちに頭を下げたいと思いますので、ここへ呼んでいただけますか?」
「い、今更、謝罪をしたとて離婚が無くなる訳ではないぞ!
明日にでも出て行け!」
ちっさい男だ。
国王の甥っ子で、それなりの実力もあるのに、使用人にうまく操られてしまって、残念な男だった。
「もちろんです。
ですが、僕にも支度しなくてはいけない事があります」
「公爵家に来てから受け取った宝石などは置いて行くように」
「ございませんから」
何も貰ってないし、受け取ってない。
「なんと嘆かわしいことか」
心底軽蔑した、という表情で僕を見据えて来た。
その目線をしっかり正面から受け止めると、公爵は目を逸らした。
僕の容姿は菫色の瞳に腰まである長いハニーブロンドの髪に、バービー人形の様な綺麗な顔立ちも、公爵にとっては気持ち悪かったそうだ。
「早く呼んでいただけます?」
こんなボンクラ公爵、もう尊重する必要もないわ。
「待ってろ!」
扉の外で待つ執事に、使用人たちを呼ぶように言うと、程なくして僕に嫌がらせをして来た連中がにやにや笑いながら集まって来た。
まぁこの屋敷の使用人、ほぼ全員。
「まずは、公爵様、先に離婚の誓約を済ませていただけますか?」
「もちろんだ」
使用人たち立ち合いの元、離婚という婚姻契約の破棄が行われた。
「この婚姻の契約を双方同意の元、破棄とする」
「同意します」
この宣誓で、破棄され契約で縛られていた僕の体が自由になるのが分かった。
「もう公爵夫人でもないお前はすぐにでも出て行け!」
「その前に皆様に謝罪を」
ボウ・アンド・スクレープをし、使用人全員を見渡した。
「公爵様、先ほどの宝石類を返却するように、との事でしたので、ここで返却いたします。
ただ、返却出来ない物もあるようですが」
見つめる先にあるのは、使用人の頭上に浮かぶマーカー。
モンブラン公爵夫人の宝石、というコメントがそこかしこに出ていた。
「真実の目」
僕のスキルの一つ真実の目は鑑定のSクラススキルで、全てを見抜く事が出来た。
そして、鑑定と違って真実の目は第三者にもマーカーが見えると言う優れものだった。
この真実の目がある僕が王室と敵対する事の無いように、公爵家との政略結婚が決まったと言うのに。
ちなみに、一度破棄した契約は同じ条件の契約は出来ない、と言うのが契約魔法の縛りだった。
「さぁ、僕の手には渡りませんでしたが、この屋敷の使用人が僕のかわりに持っているようですので、どうぞ回収してください」
マーカーのコメントには公爵夫人の宝石となってるから、偽物とも言えないだろう。
もし、僕が下賜した物なら使用人に対する暴行も非道な扱いも嘘と言う事になる。
拾ったとも言えないだろう。
さぁ、これで満足でしょ、公爵様。
「では、これにてお暇させて頂きます」
最後に少し深くボウ・アンド・スクレープで挨拶をして、広間に集まった人たちの叫びを背中に聞きながら玄関の扉を豪快に開けて飛び出した。
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