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それぞれの思い

 街へ入る時、冒険者と言う身分証明は多大なほど役に立ってくれた。 「先ずはギルドへ行って、換金と依頼が無いか探して、と」 「ほぉ、換金できるものがあるのか?」  無視だ無視。 「なぁ、そのズタ袋のようなカバンに入ってるのはロープだけじゃないのか?」  後ろから覗き込むようにしてくる、副団長とやらにイライラしながら、門番に教えられたギルドへと小走りで急いだ。  周りから見たら競歩をしてる二人みたいだったことだろうって、ちょっと恥ずかしかった。 「なぁって、俺と一緒に」 「行きませんって言ってるでしょ!」  王室とかかわりがある傭兵団のしかも副団長なんて、絶対なんかのフラグに決まってる! 「だってルイってスキル持ちだろ?」 「え?!」  なんで登録名を知ってるんだ?  「さっき見えちゃった」  悪びれもせず見たと言う。  スキルの内容までは冒険者登録カードに記載されてるわけじゃないから大丈夫だろうけど、他の街で冒険者が出来るのはスキルがある人だけだって受付のお姉さんも言ってたし、そこから想像するのは簡単だろう。  ましてや、王室の暗部を担う傭兵団なんだったら当然の情報だろう。 「僕は生産職で、鍋とかそういったのを作るんです。  もう、本当に邪魔しないでください」 「邪魔って、お前ってそんな形してるけど、汚れを落としてちゃんとした服を着させたら相当な美人じゃねーか。  だから心配してやってんだよ」  心配って、一応土工スキルは攻撃も防御も出来る優れものなんだけど、そこはわざわざ言う話じゃない。 「ご心配頂いて恐縮ですが、僕なりに考えていますから、大丈夫です」 「生産職のスキルじゃ、大した事はできないだろ?」 「だから何ですか?」 「いや、その、俺、ルイに一目ぼれしちゃったから」 「はぁ?!!!」  バカだ、こいつ本当にバカだ。  ただの脳筋バカだ。  とにかく、ギルドに急いで換金、そして服とか日用品の調達、更には錬金室を借りて製作、その後宿探しだ。 「僕、恋人も恋愛も結婚も、一生する気有りませんから、他を当たってください。  あと、地位にも興味ありません」 「えぇ~、ちょっとくらい考えてくれないの?」 「無いです。  僕の人生計画に他人はいませんから」  その場で大袈裟に漫画見たいな姿で、ガクリと崩れ落ちていた。  謁見室で取り押さえられた女は、妄想妄言を叫び自分は聖女だと言っていた。 「国王陛下、『息吹』と言うスキル持ちだと女は言っておりました。  特にレアなスキルではないので、処罰的には修道院か救済院、あたりが妥当かもしれません」 「モンブラン公、今日の呼び出しはあのような戯言を言う女を捕らえさせるために呼び出したわけではない。  そなたも分かっているのだろう?」  国王はローレンツォの事を言っているのだと察する事が出来た。 「婚姻破棄をした、と聞き及んだ。  魔法契約をし一度破棄すると同じ契約は出来ない上に、似たような契約も魔法契約として承認されない事が多いと言うのは分かっていてのことか?」 「それは、分かっております」 「では、ローレンツォが准男爵の息女によって、虐待を受けていたのを王室が保護したことも分かっていたのか?」  え? 保護? 囲い込みじゃなくて? 「政略結婚では無かったのですか?」 「バカ者が……、准男爵の横暴によって詐欺まがいの取引が横行していたのを調べていて、あの者の鑑定スキルが使われていると発覚したのだ。  その話は婚姻をさせる前に話してあったぞ、聞いてなかったのか」  不服しかなく、聞く気も無かった。 「言うなれば、叙爵した私の罪でもある。  だからこそ、しかるべき家門に保護させるために考え、お前が一番だと判断したのだ」 「養子にされたと言うのは最近執事からの報告で知りましたが、息女に虐待を?」 「そうだ。  あのスキルに目を付けた准男爵が養子にしたことを不服に思う息女が、彼を虐待していたのだ。  背中には幾重にも重ねられた鞭の跡があった、と宮廷医師からは聞いている。  准男爵を追い込むには、もう少し泳がせておきたかったのに、お前が台無しにした」  聞いてなかった。 「そんな、」 「黙れ、お前は甥っ子だからこそ公爵の地位を与えられたが、罪に問われてもおかしくないのだぞ」  国王は囲い込みではなく、保護だと言った。  だが、ローレンツォだって、保護されてるとは思ってなかったはずだ。 「ローレンツォも保護されてるとは思っておりませんでした」 「それはお前の仕打ちがそう思わせてしまったのだろう?」  全ては、私が聞かなかったせい。    

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