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第九章

「そんじゃ、乾ぱーい!」 「斎、お前は駄目だって……」  斎の部屋で詩緒、真香三人での同期飲み会が行われる。乗り気ではない詩緒だったが、仕事が終わった頃強引に真香と斎の二人に連れ出され辟易していたが、斎の部屋に居た見知らぬ先客に目を奪われた。 「……猫が居る」 「はあっ、猫!?」  詩緒の呟きに小動物を苦手とする真香は咄嗟に斎を盾にして身を隠す。段ボールの縁から必死に前脚を伸ばす存在をひょいっと掴み上げると詩緒の表情が僅かに明るくなる。その猫は未だ生後三ヶ月にも満たない程だろうか、みーみーと小さく鳴く茶トラを両手で掬い上げると詩緒は腕の中に抱く。その状態で真香へと視線を向けると真香の肩がびくりと震え、詩緒は思わず勝ち誇ったような笑みを浮かべた。 「斎ィ、此処ってペット可だったのか?」 「いんや、駄目だけど?」 「じゃあ何で」  詩緒の事が珍しいらしく、子猫はシャツに爪を立てて肩から頭へと登り上がる。そのまますとんと胡座を組んだ足の上へと落ち腹を見せつつ頭を擦り付ける姿を見ると、詩緒はわしゃわしゃと両手でその小さな腹を撫でた。 「いやだから、ソイツ避けようとして事故ったんだって」  斎が口にしたのはノンアルコールでは無かったのか、既にほんのりと顔が赤く染まっている。 「そいつが諸悪の根源……」 「真香言い過ぎだろ、まだこんなに小さいじゃんか」  足の間で子猫の腹を捏ねながら詩緒は何処か得した気分になっていた。 「榊、猫好きなの?」 「いや別に」 「めっちゃ好きじゃん……」  むにむにと小さな肉球を揉む詩緒の姿を見て真香は呟く。 「あ、お前雄か」 「猫でも雄に好かれるんだなあ榊」 「うるせえよ」  微かに見えた性器の形に詩緒は口元に笑みを浮かべ、楽しそうに突いてみるがそれを嫌がった子猫自身により爪を立てられる。 「似たもの同士って事なんじゃねぇの? 榊って猫みたいだし」 「何か言ったか真香」 「榊テンメェエエエエ!!」  首根を柔く掴み詩緒は子猫を真香へと近付ける。咄嗟にベッドへと上がり布団を頭から被る真香。 「真香は無理かあ。引き取ってくれる人を探したかったんだけど」  斎は詩緒の手から子猫を受け取り、その腕の中で寝付かせる。これ程までに自分より小さな存在に恐れ慄く真香の姿を初めて見た詩緒は物珍しさにベッドに上がり、布団を捲って真香の顔を覗き込もうとした。 「無理無理無理無理っ、俺は絶対無理だからっ!」  最大限の拒絶の言葉を投げる真香。詩緒が既に子猫を持っていない事が分かると、にやつくその表情には怒りが沸々と込みあがり、詩緒の腕を引いて布団の中へと引き込んだ。 「榊が猫好きなら榊に、ってのも考えたけど……」 「俺んとこはペット禁止じゃねぇけど」  真香に押し倒された状態で詩緒が布団から顔を覗かせる。真香の手は既にシャツの上から詩緒の肌を弄っており、止めようと伸ばした詩緒の手は真香の腕に爪を食い込ませる。 「榊は自分の世話も出来ねえ不適合者だから無理無理。共倒れするぜ」  本当に猫そっくりだと改めて認識した真香は詩緒の首筋へ舌を滑らせながら、肌を弄っていたその片手を下肢へと滑らせ焦らす様に内腿を撫で回す。 「まなかっ……」 「慰めるっつっただろ?」  抗議の声を上げる詩緒の首筋に噛み付いて赤い痕を残し、中心部を上から握り込むと詩緒の背筋が小さく跳ねた。 「俺も混ぜてっ」  眠り込んだ子猫を段ボールの中へそっと戻し、斎は嬉々として布団ごと二人を抱き締める。 「斎重いっ! マジで!」  斎の顔を片手で押し返す詩緒の脳裏にふと別の猫の姿が浮かんだ。その猫もまた雑種で、真っ黒な美猫だった。 「……綜真、なら……猫、飼ってた事あるけど」  詩緒の一言に真香と斎、二人の行動が一瞬止まる。 「御嵩さんかあ、引き取ってくれると思う?」  斎はベッドの上に転がり、狭いベッドの上で大の男三人が寝転がるには多少手狭に感じられた。 「……多分。アイツ猫好きだし」 「ああ……」  詩緒の言葉に何故か妙に納得が出来てしまった二人だった。 「結局さ、那由多とヤったのか?」  ベッドの上、三人で重なりながら真香はふと頭に浮かんだ疑問を向かい合う詩緒へと投げ掛けた。一瞬真顔になった詩緒だったが、すぐに口をへの字に固く閉ざして返答を拒む。しかし真香は詩緒の無回答を許さず、布団の中へと片手を滑り込ませると一度手を離した詩緒の中心を再び握り込み、その手で揉んで上下に擦り始める。  咄嗟に腰が引ける詩緒だったが、背後には斎が壁となって存在しており、前後のどちらにも逃げ道は失われていた。 「まな、っか」  次に布団の中にある真香の腕へと手を伸ばすが、その手も簡単に背後の斎から制されシーツの上へと縫い留められる。  意思とは無関係に真香の手中で成長を遂げる詩緒は先端に薄い蜜を滲ませ始め、手から伝わる湿度でそれを感じた真香は手探りで詩緒が履くスキニーの中へと手を滑り込ませる。 「……ヤ、ヤった、赤松とヤった、だから……」  直接触れる手の感触に詩緒の腰が大きく震える。 「飲み会の後?」 「んん、ッ……!」  真香は詩緒の先端部へ爪の先端を押し込む。大きく弓なりに反れる詩緒の身体は背後に居る斎の身体で支えられ、避けきれない状態で先端から透明な蜜を零す。  恥辱に塗れた顔で奥歯を噛み締め必死に耐える詩緒の表情を見た真香は恍惚の表情を浮かべ、顔を近付けると数度唇で啄んだ後口を開かせ、互いの唇を重ねる。角度を変えて何度か深い口付けを繰り返しながら根本深くから握り込んで煽るように上下に擦る。 「……ぁ、真香、……なん、っで」 「那由多にどんな事されたんだよ、言ってみ?」  言い澱む詩緒のスキニーが背後からずるりと下ろされる。詩緒が咄嗟に背後の斎を振り返ろうとすると、斎は上から覆い被さるようにして詩緒と唇を重ねた。斎の片手は詩緒の双丘に滑り込み固く閉ざした排泄孔を撫ぜる。 「俺は御嵩さんとの話聞きたいなあ」 「ッ、俺……使っ、て、間接キス……すんなっ」 「前に聞いた事ある、最悪な別れ方した恋人ってのが御嵩さんの事なんだろ?」  話題を逸らそうとする詩緒の中へ斎は中指を埋めて行く。途端に肉壁は震え斎の指を強く締め付ける。 「……っは、……両、ほっ……無、理ぃ、っ」  詩緒はシーツに顔を押し付けて口から溢れ落ちる唾液で汚す。 「意地張ってたって辛いだけだろ、言っちゃった方が楽だって……」  決定的な刺激は与えないまま真香は先端を塞ぐように掌で蓋をするように覆って撫で回す。斎は指を増やし詩緒を追い立てるよう執拗に同一箇所を擦り上げる。 「ぁ、はっ……なに、聞きったいん、だよ……」 「那由多との事」「御嵩さんとの事」  詩緒が絞り出した精一杯の問い掛けに真香と斎、二人の声が重なった。 「…………せめて、……どっちか、一つ」  二人が互いに牽制し合う事で隙が生まれると、詩緒は今がチャンスと二人の間から擦り抜けてベッドの上で身を起こす。二人の手を強引に振り払い下着を上げて着衣を整えつつ二人と距離をおく。 「……ほら、どーした? 早く決めろよ……」  雌雄を決してでも一つに絞れば答えてやらない事も無いと、詩緒はスキニーを抑え後退しつつベッドから下りる。 「あっ」  真香の小さな叫びと詩緒が振り返り子猫を抱き上げたのはほぼ同時だった。  詩緒に先手を打たれ悔しそうに舌打ちをする真香。詩緒が子猫を抱いている限り真香は詩緒へと近付けない。またそのまま詩緒が近寄ってきたならば真香に逃げる術は無い。 「チッ、しょーがねえ……御嵩さんとの事で良いよ」  諦めた真香は肩を落とす。観念して手招きをすれば詩緒は子猫を抱いたままベッドへと上がる。 「榊ィイイイ! それ持ったまま来んな!!」 「これを期に慣れろ。こんなに可愛いんだから」  危機を回避した詩緒は得意げにベッドの上へ座り直した斎へ凭れかかる。布団を頭から被り直した真香は開けた隙間から恐る恐る二人を見遣る。 「……で、綜真との何が知りてぇんだよ。あんま変な事言えねえぞ。あっちの立場もあるんだから」  詩緒は子猫を真香に近付けつつ、真香が飛び上がる様子を楽しむように距離を縮めて行く。 「そうだなあ、別れる理由は前も暈されたから……御嵩さんとのセックスで一番感じたのはどんな時?」 「……それ聞いてどうすんだよ」  斎らしいと言えばらしい質問に詩緒ははあっと大きな溜息を吐く。真香の目の前に子猫をぽんと置くと中から真香の絶叫が聞こえた。 「まあ興味本位だけど」  真香も興味を持ち始め、僅かながら布団の隙間を広げて詩緒を注目する。  斎は選択を間違えたのかもしれない。詩緒にとっては痛くも痒くもない質問だった。しかし話した所で面白くも何とも無い、現に今日四條に同じ事を明かしたばかりだった。  ぽりぽりと頭を掻きつつ詩緒は両肩を落とす。 「俺、綜真とは一度もヤってねぇんだよ」

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