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宮部と帰って来ても母さんも姉ちゃんも快生も何も聞かず、今日は一緒にダイニングで夕飯を食った。
「宮部くんって名前は?」
「あ、聖人 です」
「聖人くんかぁ!素敵な名前じゃない!」
「いえ、そうでもなくて……」
姉ちゃんからの質問に律儀に答えていた宮部がちょっと口ごもる。
「あ、母さん!俺、レモン欲しい!」
それを見て声を上げると、姉ちゃんは「自分で取りに行きなさいよ」とこっちを蔑むように見てきてとりあえず話題は逸れた。
「宮部くん、今日はもう遅いから泊まって行く?」
「いえ……そんな……」
レモンを持ってきた母さんが俺にレモンを渡しながら聞いてくると、宮部は慌てて首を振る。
「いいじゃん!泊まってけよ!」
スマホを確認しようとしたその手を止めて明るく笑うと「いいわよ」と母さんも微笑んだ。
何も言ってはいないが何かを察したのだろうか。
「勉強教えてもらってねぇしな?」
「勉強っ!?琉生が!?」
ニヤリと笑ったのを見て宮部が口を開きかけたが、それよりも姉ちゃんの勢いが凄くて掻き消された。
「……そんな反応しなくてもいいだろ」
こっちを見て一時停止したままになっている母さんと快生を見て目を細めると、宮部が笑いを堪える。
「笑うな」
「……笑って、ない……よ……」
結局、背を向けて肩を震わせる宮部を羽交い締めにした拍子に味噌汁を零してスラックスを濡らしてしまい、それを洗濯することになって宮部は渋々泊まっていった。
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