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「いつもなら私が走り出してもしばらく見送ってくれるせいくんがちょっと物陰に隠れたのよ」
俺は口を挟まずただ静かにその話を聞く。
「歩いて来たのは金髪のかなり派手な女。男と腕を組んで大きな声で笑っていたわ。なのにせいくんと目が合った瞬間、「消えて」って睨んでからまた笑って男と歩いて行った」
だた聞いていたはずなのに途中から込み上げてきた怒りに体が震えた。
「家庭の事情だから深くは聞いてこなかった。でも、親が居るのに家に帰れないなんて……何時間もファミレスにただ居るなんておかしいでしょ!」
遂に姉ちゃんが叫ぶと、リビングから心配そうな母さんが顔を出す。
「……二人ともちょっとこっちにいらっしゃい」
顔を見合わせた俺と姉ちゃんがリビングに入ると、母さんは快生に部屋に少し戻るように言って、俺と姉ちゃんをソファーに座らせた。
「琉生、せいくんをうちに連れていらっしゃい」
「は?」
唐突に言われたことがすぐには理解できない。
「工藤先生に間に入って頂いてせいくんのお母さんと話したのよ」
「いつの間に……」
「懇談会でお話して、工藤先生はすぐに動いて下さったわ」
最近、工藤があまり怒鳴って来なかったのは母さんと動いていたからなのか?
「せいくんを迎えに行って……ちゃんと一緒に帰っていらっしゃい」
微笑む母さんから姉ちゃんに視線を移すと、姉ちゃんは黙ったまま車の鍵を見せてくる。
ゆっくり首を振ってから俺は立ち上がってグッと伸びをした。
「……なら、行って来るわ」
「えぇ」
しっかり頷く母さんと、バチンと背中に気合いを入れてきた姉ちゃんに見送られ、俺はいつものあのファミレスへ向かった。
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