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「村瀬くんは……帰って」
「は?」
俺から目を逸らして言われて目を細める。
「うち来いよ。母さんたちも待ってる」
もう一度その手を掴もうとすると、宮部は胸の前で合わせて更に身を小さくした。
「っ!!いいから来いよ!もうお前の母さんとも話がついてる!」
「……え?」
無理矢理肩を掴むと、宮部は眉を寄せたままこっちを見る。
「母さんと工藤が色々したらしくて、お前はうちが預かることになったん……」
「だ、ダメだよっ!」
言い終わらないうちに宮部が首を振った。
また目を合わせないように俯いて。
「何で?」
さすがにちょっとイラッとしながら何とかそれを抑え込む。
「だって、きみは……」
「何?」
「……澤部さんと……つ、付き合って……るのに、僕が居たら邪……」
「付き合ってねぇけど?」
探るような遠慮しまくりの言い方もムカつく。
「いや、でも……」
「付き合ってねぇよ」
「だってあんなキ……」
言おうとするその口を手の平で塞いでやった。
自分の手の甲に口を付けてじっと近くで分厚いレンズの向こうの宮部の目を見る。
「付き合う訳ねぇだろ。俺が好きなのはお前だ」
逃さぬまま目を離さないで言い切ると、宮部が目を見開いてからゆっくり瞬きを繰り返した。
「……友情とか同情のつもりじゃねえんだよ。お前が心配で、一人になんかさせたくないんだ」
あんなに言える訳ないと思っていたのに……いざ口にしたら何とか伝わって欲しいなんて……欲張りだろうか?
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