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第1話
人々が賑やかに話している声が聞こえる。由緒正しい貴族の人間達が集まるパーティーが開かれているからだ。
豪勢な服装、煌びやかな人々に使用人である敦はいたたまれなくなり、仕事も終わったので、自室に向かっていた。
(なっ…)
裏庭に、少年がいる。差し込む月光が金色の髪に反射し、さらにキラキラと輝いている。
それだけで絵になる。それだけなら、の話だ。
少年の上には1人の女が跨っていた。
「あっ、あんっ、あっあっ」
女は少年の上で激しく動き、淫らに声を発していた。しかし、少年は頬を紅潮させているものの、どこかつまらなそうな顔をしていた。
(す、すごい…こんなところでよくやるなぁ……)
思わず、その光景をまじまじと見てしまう。すると、敦は自分の“アソコ”が濡れていることに気づいた。
女の体に興奮して、ではない。見え隠れする、その少年の肉茎にだ。
敦は、そんな自分に嫌気がさす。何故なら、自分が他の男とは異なる部分があると嫌でも思い知らされるからだ。
服の上から“アソコ”を触ってみる。しっとりと濡れているのがわかった。
(嫌なのに……嫌なのに触りたくてたまらない…)
そろそろと指を伸ばし、少し飛び出た部分を擦ってみた。
「…――ッ!!」
飛び上がりそうなほど、気持ちが良かった。
そのまま、何回か擦ってみる。はァ…と吐息が出た。
そしてゆっくりと、穴の方向に指を滑らせていく。
(あぁ、もう少しで)
「何してるの。そんなところで」
指がピタッと止まる。顔を上げると、上品な顔立ちをした少年がこちらを見ていた。ドキッとする。
「あ…いや……そのっ……申し訳ございません!!!」
敦は慌てて指を抜き、転けそうになりながら廊下を走っていく。
(見られた……!見られた!!)
敦の顔から血の気が引いていく。
視界の端に少年の顔が映る。
気のせいだろうか、少年の口元には不敵な笑みが浮かんでいた。
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数ヶ月前、黒いケースを小脇に抱えた高そうなスーツを着た男が敦の住んでいるアパートにやってきた。
「敦さんを天王寺家の使用人として雇いたいのです」
最初は、そのスーツを着た男の言っていることが理解出来なかった。
「俺を雇う……?え…ど、どういうことですか?」
こんなボロアパートに住んでいる、平凡な男を雇うとはどういうことだろうか。それに天王寺家ってなんだ?敦の頭の中ははてなマークでいっぱいだった。
「そ、そんなこと急に言われましても…今の仕事もありますし…」
すると、男はにこりと笑い、黒いケースを引き寄せそれを開けた。
「!!」
そのケースの中には、札束がぎっしり詰められていた。
「こ、これは……」
こんなにもたくさんの金を敦は見たことがなかったので、たじろいでしまった。
「敦さんのお母様、お加減が悪くていらっしゃいますよね」
敦の体がビクッと反応した。
「……何故そのことを知っているのですか」
「誠に勝手ながら我々で調べさせて頂きました」
敦は、目の前にいる男に対して、少し身構えた。
「敦さんと敦さんのお母様に手出しをすることはありませんからご安心下さい」
じゃあなんでこんなお金……と、敦は疑わざるを得なかった。
「ただ……敦さんのお母様、今非常に状態が悪いようで……このお金は差し上げます」
確かに、敦の母は難病にかかっていて、それを治療するのに莫大な金が必要だった。敦はその母の病気を治すため、様々な仕事を掛け持ちしているが、それでも金はなかなか貯まらなかった。
目の前にこんな状況があって、易々と断れるわけではなかった。
「しかし条件があって、何も聞かずに私に着いてきて頂きたいのです」
怪しすぎる。敦の鼓動が速まった。
黙って着いていけば、この金は母の治療のために使われる。しかしそれは本当のことだろうか。自分を騙しているのかもしれない。しかしそうだったとしたら何のために?
敦は混乱していた。
目の前にいる男がゆっくりと口を開く。
「信じていただけないのも、無理はありません。こんな話、信じる方が無理があるでしょう。しかし、信じてください。必ずこのお金は敦さんのお母様の元へ行きます。私のクビをかけてもいいです」
男が、首の後ろをトントンと手で叩く。
「いやそんな……」
(もしかしてこの男は、物理的に自分の首を切ろうとしているのか…?いや、昔の武士じゃあるまいし……)
しかし、そんなことを言わなくても、敦の返事は決まっていたに等しい。何故なら、敦の母にはもう時間が残されていなかったからだ。
「……分かりました。その話に乗ります…」
自分でもどうかしてると思う。しかし、これだけのお金が確実に貰えるのだ。YES以外の返事があるだろうか。
「ありがとうござます、敦さん…………では」
男は胸ポケットから小さな袋に入った小さな黄色い錠剤を取り出した。
「これを飲んで下さい。睡眠薬です」
敦はギョッとした。
「館までの道のりは秘密になっておりますので……どうか」
腹を括ると決めたのだろう。敦はそう自分に言い聞かせた。
その錠剤に手を伸ばし、一気に口に放り込んだ。
「水です」
男から手渡された水を、その錠剤を胃に流し込むようにまた一気に飲む。特に何の変化もなかった。
「下に車を停めてありますので向かいましょう」
敦は立ち上がった。いや、正確には立ち上がろうとした。
「あれ……?」
足に力が入らない。さらに意識が朦朧としてきた。
「睡眠薬が聞き始めてきましたね」
(こんなに強力だったのか……?)
そんなことを思っていると、体がふわっと浮いた。
「敦さんは眠っていてください」
(なんだか心地いいな)
そんなことを思いながら、敦は沼の中に引きずり込まれていった。
目が覚めると、クリーム色の天井が見えた。
自分の家ではないことを、数秒たって理解する。
(そうか……ここは天王寺家なのか)
のろのろと起き上がり、ベットから出ようとして、自分の着ているパジャマのようなものに違和感を覚えた。
下がスースーする。
恐る恐る下に目を向けた。
「はっ…はぁ!?!?」
なんと敦が着ているパジャマのようなものは、女性が着るネグリジェだったのだ。しかもピンク色でフリル付きの。
「いやっ…俺男……」
恥ずかしくなり、敦はネグリジェを脱ぎ捨てた。
しかし、敦はそれを後悔した。
「紐パン……」
真っ白な、紐パン。紐パンなのだ。
さらにそれも脱ぎ捨てる。
しかし、またそれも後悔した。いや、何度目の後悔だろうか。
敦には、男の“ソレ”が付いていない。正確に言えば、女の“アソコ”がある。
そう、敦は近年稀に見る“カントボーイ”だったのだ。
こんな平々凡々で、目立つところもない男に大金をくれる理由は、きっとコレなのだろう。
敦の頭の中に“金持ちの娯楽”という単語が浮かび上がった。
使用人に対してもだだっ広い部屋、あの大金、俺は金持ちのペットとして買われたのではないか、そんな考えが頭をよぎった。
ベットの横に机があるのに気づき、その上には紙が置かれてあった。
『おはようございます。敦さんの仕事用の服はクローゼットに入ってあります』
綺麗な字でそう書かれていた。きっとあの男が書いたのだろう。
クローゼットを開ける時、何となく敦は身構えた。
「……勘弁してくれよ」
クローゼットの中には、シックで可愛らしいメイド服が入っていたのだった。
「コンコン」
ドアをノックする音が聞こえたので、敦は小走りでドアのほうへ行った。
「はい」
返事をしてドアを開けると、メイド服を着た背の小さな女性が立っていた。
「あ、おはよーさん。クローゼットのなか見た?あれ着て俺に着いてきてよ。仕事説明するから」
敦は唖然とした。
声が明らかに女性のものではなく、そこで初めて目の前に立っている人間が男だと気づいた。
「あっ、はいっ」
素っ頓狂な返事をしてしまう。
「ははっ、緊張してんね〜」
敦は耳まで赤くなった。
すると、目の前にいるメイド服を着た男が、ニヤッと笑って顔を敦に近づけ、小声で言った。
「あんたってさ“カントボーイ”なんでしょ?後で俺に見せてよ、まだ会ったことないんだ」
敦は一瞬ポケっとしてから、その意味を理解し、さらに顔を赤くさせた。
するとその男はその様子を見てあっはっはっ!と高らかに笑った。
「なっ……!!」
「ごめんごめん、冗談だよ。あんた可愛いね」
敦はなんと言っていいのか分からなくなり、口をパクパクさせる。
「ま、とりあえず着替えてよ。早くしないと俺が着替え手伝っちゃうぞ?」
(可愛い顔してえらいおじさんみたいな発言をするな…)
こんなヤバそうな人間と一緒に働くのか。
敦は気が重くなった。
そして、敦はクローゼットを開け、遂にメイド服に腕を通す決意をしたのだ。
「まあまあ可愛いじゃん」
ニヤニヤとしながらその男が言う。
「どこがだよ……」
部屋の中にある鏡に自分を映す。そこには、可愛らしいメイド服と、疲れた顔をした短髪の中年男がげんなりとした顔をして鏡に映っていたのだった。
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