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第12話
中間考査終了後、黒木の家で、なぜ心が聞こえなかったのかを検証した。
「え、本?」
「そう。あの時は野間がうるさいから、いま読んでる本の内容を思い出してボーッとしてた」
「……俺がうるさいから、は言わなくてよくね?」
不貞腐れて言い返しながら、俺は実はいますごく嬉しかったりする。
最近黒木が、ちゃんと口でしゃべってくれるようになった。
意識してそうしてくれてるみたいだ。無意識に心で話すことがまだまだあるけど、ハッとしたようにまたしゃべってくれる。
それが俺には、胸がわーってなって叫びたくなるほど嬉しかった。
「野間、ちょっと十秒くらい黙ってそこにいて」
「へ?」
「お前の心も静かに」
「あ、嬉しいって聞こえた? よな? へへへ」
「……わかったからちょっと黙れ」
「へーい」
……心を静かにって難しくね?
自分は得意だからってさぁ……。
「いま、俺の心って聞こえたか?」
「ん? うーんなんかかすかに。夕飯のメニューかな? なんかそんなのが聞こえてきた」
黒木が紙になにかを書き込む。
「じゃあもう一回十秒な」
「ほーい」
『今日は勉強会初日か。じゃあ手始めに数学と英語を教えようか。嫌いな教科ダブルできっと喜ぶな』
「はぁ?! 喜ぶわけねぇだろっ! そのセットは絶対嫌だってさっき話したじゃん!」
「……なるほど。いまのはさっきよりハッキリ聞こえたのか?」
「え? ああいや、まだかすかにかな? 話しかける時が十だったら六……くらい? もし外だったら意識しないと全部は聞こえないかも。さっきの夕飯メニューが……二くらいかな。外なら絶対聞こえない」
「……なるほど」
また紙になにかを書き込む。
あ、ただの検証?
なぁんだびっくり。数学と英語両方やったら死んじゃうし。
紙に書き込みながら黒木がクッと笑った。
色々なパターンで検証した結果が面白い。
俺に関わること(六から八)
どうでもいい内容(ゼロから二)
本を読む、思い浮かべる(ゼロ)
外や学校では、俺に関わることしか自然に聞こえてこないとわかった。
もちろん、その他にも喜怒哀楽で思いが強くなれば聞こえるものは絶対ある。
どのパターンもあえて読めば聞こえた。でも本になると極端にレベルが低すぎて、教室なら絶対に聞こえない。
「黒木は実は本が嫌いなのか?」
「いや、嫌いなら逆に思いは強いだろ。関心がないんだと思う」
「……え? 好きで読んでるのに?」
「俺は本は好きじゃない。ただの時間つぶしだ」
「……えぇぇ……」
休み時間のたびに本を読んでいる黒木。まさか本に関心がないなんてびっくりだ。
「そういえば俺の心ってどうなの? なんか聞こえ方違う?」
「野間は、まあ普通の人と同じだ。俺に話しかけてるのか、ただ考えてるだけなのか、時々わからないことがあるな」
そっか、俺は普通なのか。だったらなぜ黒木だけ心が聞こえにくいんだろう。
俺は黒木の心だけ聞きたいのに。それなのに一番聞こえづらいなんて……。
「……なあ。それでさ……。気になるんだけど……。なんなのこの俺に関することレベル八……」
「なに、とは?」
「なにこの……俺が……可愛いとか可愛いとか可愛いとかっ!」
「野間が可愛いってことだろ」
「はぁ?! な、なに開き直ってんだよっ!」
さっきの検証で可愛いを連発されたのを思い出して、また顔に熱が集まってくる。
なんだよ可愛いってっ。俺男だぞっ!
「よく考えたら俺もお前に言われたよな、初日に。可愛いって」
「……へ? 言ったっけ?」
思い返してみると確かに言っていた。
眉間のシワがデフォルトなのに可愛いって俺言ったわ。
「だから、おあいこだな」
柔らかい笑顔を向けてくる黒木に、なぜか俺はまた胸が苦しくなってわーっとなった。
だって、本当にそうなるんだ。
なんかわかんないけどわーってなるんだ。
「お、俺、風呂入ってくるな……」
「ああ。またのぼせるなよ」
俺は最近、黒木にわーってなったら風呂で頭を冷やす。
いや、結果のぼせてるんだけど。
黒木の顔面偏差値高すぎなんだよな。まだ眉間にシワがあった方が俺も普通でいられるのに……。
最近、俺と一緒の時は眉間のシワが取れてることが多い。
なんだよ無駄にイケメンだなくそぉ。
学校でも俺と多少話すようになった黒木は、一部の女子に騒がれ始めてる。
いまさら黒木の良さに気づいたって遅いんだよ。おとといきやがれっ!
……って俺が思ってたって意味無いけどさ。このままだったら黒木はどんどんモテるだろうな。いつかは誰かと付き合ったりすんのかな。そしたら俺、どうしたらいいんだろ……。
急に胸がズキズキ痛んで俺は顔をしかめた。なんだろ……最近やたらと胸が痛い。
俺は深呼吸をして痛みをやり過ごし、のぼせる前になんとか風呂を終わらせた。
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