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第3話
状況を整理しよう
落ち着け僕
こういう時こそ冷静にだ
温かな日差しが馬車内を窓から入り込み照らす
目の前には柔らかな赤い生地の座り心地の良い座席に
座り、肘掛けに手は置かず膝近くに置いて綺麗な姿勢で
鎮座してこちらを見つめている
光を吸い込んだ赤い瞳が揺めきとても美して
いつまでも見ていたくなる
なんだこの乙女思考は
頭を振って考えを振り払う
「眠いのか?昨日は寝れなかったのだろう。セウスのことだ。今日のことで緊張してるんだな。まだ時間はあるから眠るといい」
そう言って席を立ち隣へ来ようとした
「ちょ、ちょっと待って何?危ないから座りなよ」
「ああもちろん座るよ。そのままでは寝苦しいだろ?俺の膝を使ってくれ」
隣に腰掛け自分の膝をポンと叩く
膝枕して寝ろってことか!?
こいつはなんなんだ?
子供扱いか?
「大丈夫だから!お前そんなこと軽々しくするなよ勘違いされるぞ。僕は子供じゃないんだそんなことは必要ない!」
「別に軽々しくはしていない。俺はセウスだけにしかしたことはないぞ。子供扱いもしているつもりはないが、実際俺たちはまだ子供だ気にすることはない」
こいつこんなにたらしみたいなこと言う奴だったか?
いちいち動揺してはいられない
心を落ち着かせよう
よしユダに知られたらきっと
坊ちゃんよかったですね?世界のどこを探しても
その膝で寝れる称号は得られないでしょう
子守唄でも歌いましょうか?お父上の愛の歌を
うん、冷静どころか腹が立ってきた
突然体を引き寄せられた
ログナスが狭くなった席で僕の肩を引き寄せ自然と
頭がログナスの方の上に寄りかかってしまう
「難しい顔をしてどうしたんだ?やはり疲れているのだろうこれなら恥ずかしくないだろ。ゆっくり眠ってくれていい」
はぁーーー
あまりの驚きに脳内でマイルがほぇほぇ鳴いている
すぐに排除して文句を言う
「これもたいして変わらないからな!?」
自分と違ってしっかりとした体で自分を受け止められる
体温が伝わり近いせいか声の振動までが伝わってくる
ひどくざわつき落ち着かない恥ずかしいだろ!
だがふわりと香るミントのような香りと柑橘と花の香りが不覚にも精神を落ち着かせる
こちらの反抗にも一切動じず
穏やかに対応される
能力や見た目だけではなく中身も騎士らしく
紳士的でもう逆に悔しいとか感情はきえてしまう
ログナスは顔は男前で凛々しく
人が簡単には近寄れない雰囲気がある
だが人々はますます惹かれて
男にも女にも信者が増えている
理性的だが自分の決めたことには頑固な一面がある
きっと暴れても宥められ逃げることはできないだろう
諦めて素直に枕になってもらおう
そうすると、ログナスはさらに優しく体を寄せ
頭と肩を支えて、時折寝かしつけるように
肩を叩いてくる
わかっている
こいつが心底いい奴でまっすぐでできた人間だと
だから何よりも復讐の前にはログナス
お前はとてつもなく邪魔で憎らしかった
目を閉じて頭の中を整理する
不本意だが楽な姿勢なのは変わりはない
堅実に生きこれから起こる悲劇を防ぎ
今度こそ平和で幸せな人生を歩むため
考えていこう
前回は復讐のためとはいえ
たくさんの人間を不幸にし利用した
それは僕の愚かさと罪だ
繰り返してはならない
これから起きるであろう出来事はこうだ
十歳の現在そこから、
二年後僕らクルースベル家が他貴族と手を組み
他国へ情報と奴隷売買、違法薬物の取引が疑われる
それを払拭するため僕は動きそれを察したログナスとユダの協力のもとなんとか解決できた
これでログナスはさらに民衆から慕われ
その歳で国の精鋭騎士となった
そして、十四歳の時……
隣国との平和記念のための式典を開催するため
国王とその伴侶と子供たち
護衛のヴァーミリオン家の当主とログナスたち騎士団と
中立国のシューミラ国に向かった
式典前日深夜に各国の国族や主賓が泊まる
離宮で反同盟軍により一部の主賓と親族
、僕の母上が殺された
王を警備していた騎士団長と部下の騎士団がいるのに
同じ警備をされていたはずのお母様の部屋だけが警備がおらず襲われ殺された
僕はユダとともにいて爆発に巻き込まれた
だがユダに逃がされお母様の元へ向かったら
全身黒い布で覆われたやつがいた
そこで一悶着あり僕は知らない場所にいた。その後
犯人たちの身元は不明であれは反同盟軍に便乗した
ある組織の計画的犯行なのだと…
独自で調査しあの時のあいつの言葉を信じたくなく
裏で調べたが王直属の諜報部により隠蔽されて情報が消されていた
ふざけるな、ふざけるな!!
諦めてたまるものか!何よりも愛情深く僕のために涙を流し愛しい我が子セウスと笑ってくれたお母様を
みすみす殺されそれを受け入れろなどと
できるわけがない!!
それから死ぬまで十年
地獄の日々だった
負の思考に浸っていると
頭に感触がした
肩を抱いていたログナスが頭を撫でたようだった
そして右手で僕の左手の上に重ね
心配そうな顔をしている
いつもは真顔で他を圧倒しているくせに
なぜこんなことに
「セウス…何か辛いのか?今日はやめとかないか?セウスが調子が良くないなら休むべきだ。皆心配するだろう。俺が変わりに断っとくから安心してくれ」
そういうことか
僕が暗い様子でいたから心配させたみたいだ
たしかにこいつは年下の僕を弟みたいに心配して
大事にしてくれていた
基本紳士的で分け隔てなく他者を助けるが
自主的にこうまでして接してくれるのは
この時は僕だけだっただろう
以前はそれが嬉しくてよく困らせたものだった
「うん、大丈夫だログナス。馬車で少し酔ったかもしれない。悪いけどもう少し、こうさせてくれ」
眉を寄せていた顔が少し和らいだ様子だ
ログナスは重ねた手をそのまま僕の胸に置き
治療魔法で緩和してくれた
「無理はしなくていい。全て任せてくれ。着くまで我慢できそうならこのままいこう。焼石だが少しは楽になるだろう」
貴重な魔力を惜しげもなく城につくまで
かけ続けてくれた
こんな誰よりも優しくできた男と
俺は最後まで分かり合えなく殺し合ったんだな
別の胸の重さを感じ
この時だけは素直にログナスに
甘えさせてもらった
「セウス、……起きれるかセウス」
眠りから呼び覚ます声が聞こえた
なんだかとても気持ちが良く起きたくはない
声をかけられたのはわかるが
柔らかい声にさらに身を任せていたくなる
あったかくて香る甘いようでスッキリする花の香りがして
それをより強く抱きしめる
「セウス、嬉しいけど陛下たちがお待ちだ。もっと寝ていたいならこのまま運んで寝室に連れていこうか?」
んん?へいか?
!?
勢いよく起きる
頭はだいぶスッキリしていた
「お、起きれるから、大丈夫ですから、はい」
あ、あぶない熟睡してた
しかもいつのまにかログナスの膝の上に乗っていて
肩に頭を乗せ抱きついていた僕を抱きしめて支えていてくれたようだ
「な、なんでこんなことに!?」
「ん?馬車の揺れで寝にくそうだったし危なかったからな。こうした方が安全だしよく寝れただろう。元気そうでよかった」
嬉しそうに微笑んだ
くそこれだから美形は
普通の男なら犯罪だぞ!
僕がやったら、うんまず支えられないか
「もう着いたから大丈夫そうなら起きて城に行こう。王妃様は先におられるはず。セウスは主役だから準備もあるだろう」
そう言いながら腰を支えたまま
涎が出ていたらしくそれを指で拭われた
ひ、ひぃもうおやめになって
恥ずかしくて震えてしまう
「行くから降りる!おろしてくれ」
丁寧な動作で下され
扉を開かれ手を差し出された
それを掴み馬車から降りる
「では参りましょうセウス王子。今日も貴方様の素晴らしい一日であらんことを」
そういってそんな臭いことを言われる
王女相手じゃあるまいし
令嬢にでも言えばいいのに
でもログナスはとんでもなくモテるが
そういったことに関しては一線を引き
決してうわついた話がなかった
そこは英雄黒騎士の名を守るためと
ログナス自身の清廉な精神からくるのだろうな
宿敵ながら叶うはずもなかったなと思い知らされる
なぜかそのまま手をひかれ城までの道を並んで歩く
目上にある横顔を見つめる
キラキラと陽を反射する黒髪が青い光を放つ
やはり美しい男だと思う
最後の時はろくに会話もせず一方的に僕がなじった
それに苦しいような目で鋭く睨みつけられていた
やはり敵であっても優しいログナスは心を痛めたのだろうか
それとも叛逆者の僕を心から憎み殺したかったんだろうか
僕を刺し貫いた時、やはり綺麗な瞳に見つめられ
お前に殺されるのが歪んだ人生では唯一救われた終わり方だったんだろう
「どうかしましたか?」
こちらを見つめ優しく微笑むログナス
「ううん、ねぇログナス」
「はいセウス王子」
僕は互いに見つめ合いながら言う
最後には言えなかった言葉を
「ありがとうログナス。ごめんね」
一瞬驚いた表情をしたが
きっと誰にも見せたことがない顔で
「こちらこそありがとうセウス。謝らなくていい」
そう言ってきゅっと強く手を握られる
ああ、願わくば
この儚い幸せが
穏やかな夢が醒めませんように
そう心に願って歩みを進めた
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