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第10話

嫌に白く無機質な直線に続く通路が続く 見慣れた光景 床に音を立てる靴の音が空虚に消える ……………… 立ち止まると目の前に扉が現れた 先程まで永遠に続くかのような通路だったがまるで最初から存在していたかのようにそこにあった まだ実例はないが防御機構があり招かざる侵入者ならば永遠に囚われて抜け出せない精神拘束円環通路だ そもそも設計者である自分が引っかかることなどありはしないのだが… 扉を一瞥し一歩前進すると当然のように扉が開く 中から一瞬暗い光が我が身を照らした ……………… 「ほら。言ったじゃないか?ゲノムの遺伝子情報がそもそも文字列数が違うんだって。君が熱心にゲノム編集技術を脳にインプットしていたけどその種の生物的欠点と思われる箇所は彼らの観点でみれば生存戦略であり種を多く残すという事柄については成功している。たとえ短命で弱肉強食のご飯になる側としてもね」 「納得できない。何のために命を連綿と続けてきたんだ。個としての尊厳がない。あまりに陳腐で滑稽だ。それは生命として間違っている」 「君の言いたいことはわかるがそれも個として尊重するべきでは?君が哀れだと思おうが彼らとしてはそれがあたり前の帰結であり成功なのだろう。君はどう思う?」 「……どうでもいいかな。それを論議したところで生産性もない」 「実に極論だ。何事も生産性という言葉を使えば議論の意味がない。僕らの存在意義だってその意味を失う」 「だが……おや」 「君が遅れるなんて珍しい」 「ねぇお茶が冷えた。そちらの管轄である名産の茶葉があるだろう。それを所望する」 「ふむ。構わないが不公平ではないか?そちらも隠している茶菓子を公平にトレードするべきだと思うけど」 「……ふぅ。ねむい」 「辛い。これは辛すぎる。味蕾が死滅している可能性を示唆する」 「失礼すぎる。表へ出ろ」 「やはり此処にはこの絵画がいいと思う」 「……芸術に関する感性は様々だが、些か常軌を逸していると判断せざるを得ない」 「表へ出ろ」 ………… 「空間閉鎖と隔離はしているが騒ぎすぎだ。談義も構わないが程々にしたまえ。それと退室者は再入室の権限は剥奪するからそれを覚悟してくれ」 「「「「「了解」」」」」 毎度のことながら騒がしい彼らだ 大きな長テーブルを囲みそれぞれが自席に座っている 席は十席その場所のみ、照らされている そして私の席で十一席 彼らはそれぞれが顔がないフェイスレス 正確には存在しているが秘匿性ともう一つの理由のため、顔を偽装している 席に座ると自然と沈黙が部屋を支配する 「各自情報を同期……自己判断と懸念する問題については個別に接続送信すること。…………こら余計な情報を混ぜるな」 「余計とは失礼な。主とする君が芸術的感性を「わかったそれについては後に答えよう」よろしく頼む」 有能だがそれぞれが確立した個性がありそれ故に彼らをまとめる存在として疑問を抱いてしまうがそれも複数の観点と思考による事象の観測に活用できると思いそのままにしている 「……北の氷の大地は相変わらずの沈黙か。…それに比べて南の死の国は堂々としている」 「それもそうだろう。彼の地は別の意味で不変。実にらしい、とも言える。因みに西も東も表面は平和という仮初の塗装をされているが、既に剥がれ始めていて暗部がよく見えそうだ。それ……おいしい?」 「悪くない」 「そう。……まぁ私たちはこれまで通り。愛しき騎士達は健やかに生きてくれている。どうしようもない負担を彼らに背負わせたのは心苦しく私たちの至らなさだが、そのお陰でより我が夢は明確になった。例の神子たちもなかなかに面白い」 「あれね。一人は確か、ああ。寂しい思いをさせてしまうが仕方ないだろう。せめて旅路は責任を持って堅実に守ろう。あの悲劇は二度と繰り返さない。もう一人は発芽しない限り観察だけにしたね。あとは、例のお気に入り?」 態とらしい物言いだ 「今回の特殊特異点として報告する。実に興味深い存在だ。今まで《目》に映らなかった存在だ。背後、いや上位存在である奴らがらしくもなく介入してきた。そのお陰で新たなルートが確立した」 「「「「……」」」」 各自が思考する 琥珀色の液体に映った己が波に揺れる ゆっくりと飲むと芳醇な香りが時と空間から切除されたこの場所の中で唯一癒しを感じた 「残りの議題は次回まで想定を計算して各自バックアップしておくように。情報戦こそ私たちの戦場だ。努努忘れる事のない様に。質問は?」 …… 一人が手をあげる 「…私たちは随分と遠くに来た。記憶と意思が摩耗し灰のように散っていく中で積み重なった大罪と背徳。そして《  》。終わりはくるのだろうか」 皆が沈黙する 「違う。終わらせるのだ。必ず。それが贖罪であり、義務だ。神話が終わり人類が歩み始め光が差し闇が蠢く。愚かしくも歴史は繰り返すものだ。だから私は歩みを止めてはならないのだ」 …………………………………… それぞれが決して違えることのない誓約 同一存在の彼らが頷く 「これにて深空意識会議を終える」 一人、また一人と姿が消える 「どうした?」 右席の同一存在が残っていた 青い炎に片目の仮面をつけている 「いや監視網にエラーがあってね」 「?……君の管轄なら対処するといい。懸念材料があるから増援を送るが」 「いや君のところだ」 「……ん?」 「だから、ああ接続を切ってきたんだね騎士たちは勘が鋭いし無用な事だから」 「接続………………なんだと」 「大変だね。いつだって子守は予測不可能なトラブルはつきものさ。君のお気に入り、死んでしまうかな?」 「全く何という事だ。すまないが空間施錠は任せる。殺されていないといいけど…あの子は真面目だが頑張りすぎるところがある。デザイアの管理権限を利用し片付けてしまうだろう」 「フフ。後のことは任せたまえ急ぐといい」 薄く笑って手を振った 全く他人事だと思って 「では」 演算処理を加速させいつもの通路迷彩を施して意識を戻す 一人残った部屋で椅子の背もたれをなぞる影 「それはそうだろう。私たちは変化を期待してのただの思考実験だ。影に尋ねる事自体滑稽だよ。私」 そう、彼らは一人から分裂した存在 そして分散した思考と精神により因果を収束させるための装置 「さて、幕引きは誰によって降ろされるのだろうね」 証拠の存在しない0と1の狭間で影が一人、ゆらりと消える ▼ ………………転がり落ちる 弧を描いた流血が艶かしい 死を体感しながらそんな事を思った 「……」 グギャヒャヒャヒャgrrrrr…… まるで心から愉快におもちゃを壊した子供のような笑い声だ 不幸中の幸いか、痛みはない 「痛っ」 そう思ってたら鋭い痛みを額に感じた 「あれ、死んだはずじゃ」 もしや、また復活?もう一度チャレンジできる感じですか? 「ふわっ」 突然ほっぺたをド突かれた 痛みはないが驚いた 摩りながら正体を探る………… 黒猫だ 数歩歩いた後くるんと尾を足に巻いてこちらをチラッと見た後毛繕いをした ふてぶてしい猫だ そう感じた。この猫が、助けてくれたのかな…… 僕には普通の猫とは不思議と思えなかった 「助けてくれたの?……」 …… そう問いかけても猫は一度動きを止めてチラッと見ただけで再度毛繕いをした なんだか、偉そうだ grrrrr…… ッ! 近くで唸るような響きを感じた 恐る恐る窺うと本棚の後ろに先ほどの化け物がいた そして、その正面には頭の無い僕らしき死体があった へ!?やっぱりし、死んだの僕! 慌て見ていると死体に変化が起きた 淡く光だし花弁のような粒子を放ちながら霧散した あれは、……魔術擬装体(デコイ)だ いつの間に仕掛けられたんだ?詠唱も魔道具の反応もなかった つまり、事前に隠蔽されたまま仕掛けられていたと言う事だ 僕自身にかけられていたということは、知り合いの誰かだろうが……なぜ秘密にしていたんだろう 出来そうなのはユダやログナス、辺りだろうか 二人なら普通に事前に教えてくれそうなのに いや、油断する隙になるからあえて告げなかったんだろう それの方がしっくりする そのお陰で助かったんだ でも、この猫は? 振り返り見ると猫は本棚をじっと見ている 「……とりあえず、ここから逃げよう猫ちゃん」 小声でそう言い猫を抱き上げようとしたが華麗に猫パンチされて拒否された ……生意気な 叩かれた手をさすりながら見ていると猫がある場所を見つめていることに気がついた 本棚の中央にある背表紙が赤黒い本だ さっきのと、一緒かな?見ていると何故か胸のあたりに湧き上がるような衝動を感じる ………………自然と体が動き手を伸ばした 触れてはならない そう頭に声が囁くのに体は動きを止めない もうすぐ、触れる 「貴様、何をしている」 「ッ!?」 驚きで飛び跳ねた 声のした方を振り返るとそこには背の高いスラっとした身なりのいい青年がいた 「何をしていると、聞いている」 綺麗な顔を顰めて鋭く睨む これは、また危機的状況なのでは?いや、もしかしたら助けてもらえるかもしれない 「あ、あの」 「…身の程を弁えない愚かな闖入者め。己の愚かさを悔いながら死ぬといい」 あこれダメなやつじゃん!話聞かないタイプだ! 脳裏でフォルテがなんだ!文句でもあるのか?いいぞかかって来い!と腕組みをしている。こちらからお断りします 「ちょっと待って話を「怒れ轟け雷よ 貫け!」聞けってばぁ!?」 猫を抱きしめて飛び出す 先ほど立っていた場所は雷撃により黒く焼け焦げていた あれは当たったら即死じゃん…… 「フン。小鼠が。…麗しき旋律 天を穿つ慟哭 聖者は愚かしくも涙を流し罪により死に絶える」 なっ、なんでそんなに絶対殺す気マンマン何ですか!? その詠唱知らないけど絶対暗黒魔術だよねしかも高位魔術 謎の青年の詠唱により辺りが強い魔術起動効果により空気が重く感じる や、やばばば 直撃しなくても呪殺できるレベル!?禁忌魔法堂々と使うな! 「それは告解 堕落した天使 歌う声も失われた」 「ッ!もう!ロストスペル」 「!?」 相手の詠唱に干渉する高等テクニックだ うまくいけば術を不成立にできるし最低でも遅延ぐらいはできる 「……答えよ愚者よ 応えよ断罪の光」 「うー……沈黙せよ賢者よ!隠匿せよ暗き聖者よ」 効果が薄かったようで急いで反詠唱を唱える 効果は大きいが行動が制限させるし他の術は使えない 時間稼ぎだけど今はこれしか…… グルルルrrrr……グォオオン!! ッ!?さ、最悪だ!当然だけど先程の化け物がこちらに気づいたようだ でもあの人も同じ条件だし、でもでも仲間とかならもう詰みじゃないか 「武力介入を拒否する!待機していろ」 やはり仲間なようだ だけどあのやばそうな化け物はこちらに来ないらしい 何故なのかはわからないけど不幸中の幸いだ 「現れよ」 そう言って手をかざすと真っ白い剣を呼び出した 魔法剣か?今僕は帯刀してないのに! 「死ね」 反射的に勘で避けた 何かが通り過ぎ背後にあった花瓶が割れる 斬撃を飛ばしたのか、それとも魔法武器による風魔法か どちらでも当たれば大怪我だろう 「夜闇に溶けろ インビジブル」 詠唱すると奴の姿が消えた 僕は咄嗟に感知の術を展開したが何も反応がない 「……」 無音が耳に痛く感じ未だに目が赤く光る化け物の視線がこちらに向けられている 警戒するも背後で白い鋒が僕の心臓を貫こうとしていた 「開け門よ!遠き夢の庭園、星無しの海!辿り着く場所は僕の後ろへ!」 張り詰めた声が聞こえた 「んわ!」 「ふわ!」 情けない声が身体と共に重なった 僕が驚いたせいでバランスを崩して倒れたからだ 「ご、ごめん。ル、ルイエ?」 「うん。……大丈夫、怪我してる!」 眦を下げていたが僕の首に一筋の線を見つけ慌て出す そこから赤い雫が垂れている さっきので切れてしまったらしい 僕は…… 見渡すと離れたところに先程の当たりの強い話を聞けない青年がこちらを睨んでいた もしかして、転移したのか? 先程の詠唱はルイエの声だった 最高位魔術である転移魔法を扱えるなんてすごい事だ 「うっ、うぐ」 「ルイエ!?」 苦しみだし地面に膝をついたルイエに僕は身を寄せる 「大丈夫!?苦しいの?」 背中を摩るが変わらずにルイエは苦しそうに呼吸をしていた すると 「……何のつもりだ旧型」 旧型? 「………………はぁ、はぁ」 「ルイエ」 肩を支えようとしたがルイエは顔を上げて僕に微笑むとゆっくりと立ち上がる 顔が青くなっていて辛そうだった 「…………この人は、僕が守る」 「……裏切るのか?論理回路すら正常稼働してないようだな。実に愚かだ。なんで貴様が……」 言葉を濁し冷たくルイエを睨んでいる スッとルイエは僕の前に立つ 「お願い……見逃してくれない、かな?」 「お願いだと?笑わせるなよ!俺に命令権限はない筈だ!そうやって弱いふりをして見下すのか貴様!」 体から黒と紫のオーラを放ちながら睨む姿はまるで悪魔堕ちした人間のようだった まさか…… 「お願い、するよ。僕はどうなってもいい。でも、セウスは悪い人じゃない。帰してあげてよ」 「ダメだ。何人たりとも例外はない。創造主様の命令は絶対だ。貴様はそれすらわからなくなったようだな。そいつは禁書に触れさらに中身を閲覧した疑いがある。なら処断するのがルールだ」 「……創造主様はきっと御許しになるよ。お、お優しい人だからちゃんと謝って、許して貰えば……」 「フン。随分と都合の良い事ばかりを述べるな。自分が初期型だからと偉ぶりおって。そもそもデザイアが起動して攻撃した時点で有罪だ。それぐらい理解できるだろ欠陥品」 吐き捨てるように奴は言った どこか言葉に強い憎しみ……のような強い敵意を感じせる態度だった 「もういい。庇い立てするならそのまま好きにしろ。どうせ魂核さえあれば問題はないだろう。…………最終通告だ。どけ」 「…………」 後ろからでもわかるぐらいルイエは震えていた 「ルイエ。もういいよ。よくわからないけど僕のせいで君まで危険な目に遭う必要はないんだ」 「……ち、違うよ。僕は、ただ友達を守りたいだけなんだ」 出会ったばかりの僕にそこまで……弱々しく話す姿から臆病なところがあるんだと思っていたけど、とても心が強くしっかりとしていると伝わってきた そんな僕たちを侮蔑し息を吐いた青年 「暗き海は揺れる 揺れる 音無く揺れる 現るは狂気の化身 星は消えた 光は消えた ……泡と共に沈め」 閉じられた目を開き、現れた瞳には禍々しい光が宿っていた どこか、僕はアレを知っている……ような 考えの最中状況は凄まじく変わる 「うぅッ!」 「あぐッ!?」 激しい眩暈と噎せ返るような不快感 そこから酩酊するような感覚と浮遊感 ぐちゃぐちゃにされた後上下逆さまに中身と精神をかき混ぜたような苦痛 その激しさの中見えたのは真夜中に見えた一つの星 それは………… 『黒き神よ 水底に沈み 星に還れ 此処は汝の星に非ず』 「ゲホッ!」 「…………はぁ」 僕たち二人は地面に倒れていた 水面から脱し待ち望んでいた空気を吸うように大きく息を吸った 何が、……起きたんだ まだクラクラしながらも目を動かし前を向く グルガルルrrrrr………… 目の前に黒い巨体があった それは先程の化け物だった 助け…られたのか? 「……どういう事だ?デザイアに上位権限でアクセスされるなんて、ありえ……」 『落ち着きなさいエイン』 地を轟かせるような唸り声では無く知性を感じさせる声だった でもその声に認識阻害がかけられているのか 女性のような男性のような、判断のつかない声に僕は聞こえた 「あ、貴方様は創造主様……」 エインと呼ばれた青年は驚きを露わにしその場で跪いた 隣で辛そうにしていたルイエもゆっくりと跪いた 『話は後にします。…エインは彼に黒詩篇四編《霧霞む海上》を。ルイエは消耗が激しいようなので待機してなさい』 「「御意」」 恭しく二人は頭を垂れていた 僕はさっきの衝撃の後遺症で意識がまだすこし朦朧とする …… エインが僕の前に立つ。何かしないとと思うけど体も頭も重く鈍い 彼は僕に手をかざす 「影よ広がれ 海は我が故郷 臓腑なり 全ては霧によって覆われ遠ざかる……」 「なにを……」 伸ばした手は届かなく 僕を無感情に見下ろすエインが見え、意識を失う際悲しそうな顔をしたルイエが見えた 暗闇の中で左手に繋がれた温もりが確かにそこにあったのを覚えている 「ふぇふぁらんす!?」 僕は飛び起きた 「起きたか」 隣から聞き慣れた声が僕の耳に届く 「あれ?………………ログナス?」 隣には椅子に腰掛けたままこちらを見つめているログナスがいた そして当然のように僕の右手を握っている 驚いてその手を離す それに動じることもなくログナスは僕の乱れた前髪を直し心配そうに見つめる 「僕は……」 見ると柔らかなシーツと肌掛け、そして白いカーテンが風によって揺れている 室内は外からの夕焼けによって焼けるような色に染められていた 「寝ていたらしい」 「寝てた?」 いつの間に?確か、ルイエと図書館に行って調べてそろそろ昼休みも終わるから戻ろうとして……寝た? 記憶が曖昧で僕は首を傾げる 何か、また大事なことを忘れているような…… …………………………………………また? 「お!起きたんだーよかったぁ」 遮られていたカーテンから大柄な青年ケイが現れた 「ケイ!」 「静かにしろ馬鹿者。ここは医務室だぞ」 「フォルテ」 二人が僕のお見舞いに来てくれたらしい イトスは制御できなくて窓ガラスを三十二枚破壊したせいでヒスイに連行されていったらしい 「セウスはね。魔獣育成室の中で寝ていたらしいよ」 「ほんとに!?」 まっっったく記憶にないけれど 何でそんなところにてかそんな場所あるんだ違法では? 「そう……なんだ」 いつのまにかログナスの膝上に移動されあやすようにお腹をポンポンされ頭を撫でられている 「心配したぞセウス。授業をサボりたかったなら俺に言えばいい。やはり側から離れるのは問題だな……」 最後の方は聞かなかったことにした 「堂々と授業をサボるとは弛んでいるな」 「そんなこと言ってー。あいつはどうした?もしや迷子じゃないか?…総務室に聞きに行くべきか。とか言ってたじゃんかー」 「な!?真似をするな真似を!!俺はクラスメートとして一般的な道徳観で」 「はいはいー」 二人の漫才を見ながら僕はぼうーとする 心配してくれたんだ 「セウス…」 「ふぇっ!?」 耳に至近距離で吐息混じりの声で名を呼ばれた 甘い痺れに驚き飛び上がるようにして飛び跳ねログナスに華麗にキャッチされた 「やめてよ!」 「フ……すまない」 美しい顔で微笑み僕は顔が熱くなる 全然すまなそうじゃないんだけど! 「俺はもう戻る!」 「待ってよフォルテ。あっこれ渡しとくね。じゃあまたね二人とも」 手を振ってフォルテを追って去っていったケイを見送る 「……………………んな!?」 渡された紙には 『イェーイ読んでる?お馬鹿なおチビちゃんへ 午後の授業と罰則の掃除をサボったので主任教官室へ後日向かうこと!あの頭でっかちむっつり堅物筋肉野郎と仲良くな! 次サボる時は俺を呼べよ!いいとこ教えてやっからよ! by 頼れるイケメンお兄さんことヒスイ』 ………………チッ つい舌打ちをしてしまった 後ろで大人しく頭越しに読んでいたログナスが構わん無視をしていいと囁く ………………またやらかしてしまった 訪れるであろう叱責に僕は怖くて震えた それをログナスは寒いからだと思い温めようと摩ってくれていた ……………………………… はぁ 不思議と右手に温かな感触を僕はまだ、感じていた ▼ 《???図書館》 …… 無音で光すらない黒い図書館で一人 静かに黒い本の頁をめくる音が微かに聞こえる 否 そこには真っ黒な巨躯に赤い瞳を輝かせた化け物がいた 悠々と読書をしている白い人物は恐れ多くも化け物を椅子がわりにしてそこにいた 化け物は怒りを表すどころかまるで巣で休むように落ち着いており時折甘えるように顔を寄せ撫でろと催促する 眼前、そして下 跪く二人の同じ白い青年たち 微動だにせず跪く姿は置物のようだった 「……いい加減飽きたのだけれど」 「「申し訳ございません」」 頭を上げることなくそう謝罪した 一人はエイン 冷徹で厳しい人柄だと思われた青年だが今は見る影もなく怯えている もう一人はルイエ 眉根を下げ目を閉じて頭を下げている 彼はエインとは違ってただ沈黙し静かにそこにいた パタン…… 本が綴じられた 「もういい。連絡を途絶させていたのは私だし。お前たちは私の命令通り動いていただけだからね」 薄く笑いそう告げたのはサイファー 化け物に背を預け彼らの前にいた 「ですが、創造主様の大事な鍵に私は……破壊しようとしてしまいました。報告を受けていた筈なのに管理責務を優先するあまり愚行を行いました。どうか罰を」 悔しそうに拳を握り込むも漏れ出さないように唇を噛むエイン 「お、お待ちを!……ど、どうかお話を聞いてくれませんか?」 「ッ!立場を弁えろ!そもそも貴様がアレを連れて来さえしなければ」 「そこまでにしなさい」 「はい……」 小さくため息を吐く まだ彼らは不安定、だからこそ経過観察をして適応能力と個としての在り方の変化を期待していた だが…… 「どっちみち最初に発見し駆除しようとしたのはこの子デザイアです。彼セウスは無事でしたしこの場所に関する事柄は封印をした。記憶の墓場は二人のおかげで守れました。この事は不問にします」 「……誠に多大なるご慈悲、ありがとうございます」 「ありがとう、ございます…………」 「ルイエ」 「はい。創造主様」 恭しく返事をする エインとは違いただ、静かに 「再度尋ねます。故意的に彼を招き入れたわけではありませんね」 「はい。創造主様に誓って申し上げます。僕は決してそのようなことをしておりません。ですが、……エインが申し上げたように表の図書館には、案内しました。ですが、ですが決して僕は、謀るなどしておりません。よろしければ僕の記憶領域を覗いて下さって構いません」 「ふむ。よろしい。確認したまでだ。デザイアの記録を参照しましたがお前たちに問題はないと判断します」 「「……」」 「それより、問題はこれです」 先ほどまで読んでいた黒い本を掲げる 「それが、何かございましたか?」 エインは尋ねる また自分が何か失望されるような失態を犯したのか それを想像しただけで絶望を感じる 能力と価値のない己には存在意義が、彼には見出せないからだ サイファーは黙ったままそれを上に投げる すると ガルグルルrrr! 眩い光を放ちながら本が爆発した それをデザイアと呼ばれた生物が凄まじい速度で喰らう 口から残り火のように炎が溢れる 「まさか、そんな」 エインは恐怖した ここにある蔵書があんな風に破壊されるはずがない 管理者である自分がよく知っている それ故に愕然とする 隣にいるルイエも驚きで顔を変える 「なるほど。……やるじゃないか」 二人とは全く違う反応をしたサイファー それを見て二人は困惑する 「手癖の悪い猫がいたようだ。…まぁいいだろう。借りがあるから許そう」 デザイアの背から降りて歩き出す どうせアレを持ち出したところで意味を成さない ……むしろ盗み出すことでより君の目的がわかったよ 状況は優勢 「後日二人に話があります。執務室に来なさい」 「「はい」」 サイファーはこの空間から退室する するとデザイアはまた獲物を探すように徘徊を開始した 「……」 エインは立ち上がり、立ち去った 「ま、待って」 背後から弱々しい声が掛かる それだけでひどく苛ついた 「…………なんだ」 「ごめん、なさい」 返事はなく 一人小さい体を丸めてただ去っていく背中を見つめていた

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