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第5話

 退院して一ヶ月。吉良はもう問題なく歩けるようになっていた。医者には、綺麗に骨が割れていたのが良かったと言われたが、これは灰谷に感謝するべきなのだろうか。ぼんやりと考えながら、PCのエンターキーを叩いた。 「報告書、送りますね」 「ありがとう。相変わらず、吉良くんは仕事が早いな」  関心した様子でそう言うと、榊原は自身のPCの画面に目を落とした。  榊原が顔を上げて、こちらを見つめる。 「ちゃんと隠さず報告してくれるようになったね」  ニヤニヤと笑う榊原。少し気恥ずかしくなって、吉良はPCに視線を落とした。 「……規定事項を、報告しただけです」 「つれないねぇ」  榊原が笑う。いつもの少し困ったような表情だった。  なんだかムズムズして、ポケットをあさってタバコを取り出した。 「……タバコ、吸ってきます」  別に、榊原に気を許したわけではない。上司として認めたわけでもない。ただ、念のため、詳細事項を報告しただけだ。吉良は自分にそう言い聞かせながら、逃げ出すように喫煙所に向かった。  

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