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side. Subaru
「何なの~アンタ?」
爽やかな笑顔の中に、
あからさまな苛立ちを醸し出す森脇。
だが、声の主に通じる訳もなく。
彼は腕を組み、仁王立ちで対抗してきた。
「あれ、キミは…」
「…………」
黙ってさり気なく晃亮の背後に隠れようとしても、無駄だったようで。
俺の不安など知りもしないその男…篠宮サンは。
ニコニコしながら俺の方へと、歩み寄って来た。
「久し振りだね~。今日はお友達と一緒かい?いや~青春してる?」
「……ども。」
仕方なく会釈すれば、親父臭い喋り方でバシバシと二の腕をど突かれる。
地味に痛い…。
「…すばる?」
冷めた声で俺の名前を呼ぶ晃亮に、
ドクリと心臓が跳ね上がる。
晃亮を振り返れば、
つられて篠宮サンも晃亮に視線を移し…
ぶつかる互いの視線。
「…誰だ?」
針を刺すような低音。
晃亮は、不要なモノと判断したものには容赦しない。
例え相手に非が無くとも。
彼の前では彼が法で。
篠宮サンの態度次第では、最悪の事態になりかねないような…
そんな空気を、纏わせていた。
拳を握り、張り詰めた空気を押し隠し、
成り行きを見守る。
すると…
やはり空気の読めない篠宮サンは、
ニッコリと場違いな笑顔で以て答えてしまうんだ。
「ん?オレはここのバイトだよ~!」
「…………」
晃亮が拳を握り締める。
表情は虚ろなまま、篠宮サンを捉えていて…
ゴクリと唾を飲んだ。
もし晃亮のスイッチが入ったら、
俺にも…例え森脇達3人がかりで抑えにかかったとしても。
まず、止められやしないだろう。
けど、ダメなんだ…
この人だけは、違うんだよ…晃亮。
この人だけは、
絶対に傷つけちゃいけない────…
いつ晃亮が暴れ出しても、
おかしくないっていうのに。
篠宮さんはカラカラと、この危機的状況を笑い飛ばし…
ゴソゴソと、ポケットの中を漁りだす。
「ホラ~これあげるから、煙草消しなさ~い!」
事もあろうに、篠宮さんは凶器に値する晃亮のその手をガシッと掴みとると…
「なん、だ…?」
「ミルキィだよ!!禁煙すると、口寂しくなるんでしょ?」
コレ好きなんだぁ~と、
晃亮の手に飴をこんもりと乗せ始めた。
「はーい!喧嘩しないように、キミ達もサービスね~!」
そう言って、俺と森脇にも山のように飴を分け与える。
「あっ、ありがとう…」
森脇は気が削がれたのか、頭まで下げて飴をポケットにしまい込んでいるし…。
「すぐにとは言わないけど、少しずつ本数減らすんだよ~?」
そう念押しした所で店内の土屋が会計に向かったので。
篠宮サンはじゃあねと慌てて戻っていった。
「…………」
手のひらの飴玉を、じっと見つめる晃亮。
俺だけが知れる、晃亮の異変。
何ものにも無関心なのに。
初めて、空っぽの瞳が、何かを捕らえた…
その微々たる変動。
ずっと傍にいたから、解る…。
(お前も、知ってしまったのか…)
沈黙のまま、見ているだけ。
端から見れば、ガン付けしてるようにしか見えないけど、違う。
確かに、それは動かされている。
晃亮の心が、
あの人を受け入れた証拠。
「晃亮っ…!」
思わず名を呼ぶ、俺の声は掠れていたけど。
今はそんな事を気にする余裕なんて無かった。
「…どうした?」
「いやっ……」
俺の動揺を気にする事も無く。
晃亮は手の中の飴と、ガラス越しの篠宮サンを何度も見返している。
ドロドロ溶ける、俺の中の醜い獣。
不安と絶望、ほんの少しの希望が混在して…
胸がはち切れそうに、痛い。
それでも、隠さねばならない。
晃亮がきっと、許さない。
異質な空気の中、
扉の電子音と共に、
「お待たせ~!なんかここの店員タバコ売ってくれねぇんだけど!変わりに飴玉すげぇくれてさぁ~…」
まさに場違いな、
土屋の間抜けな笑い声だけが…
その空気を、ブッた切っていた。
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