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side.Subaru 「…はぁ………」 一度深呼吸し、覚悟を決めて玄関のドアを開ける。 一歩中へ踏み入ると… 室内には、何故か異臭が漂っていた。 「円、サン…?」 それが何か、焦げた臭いなんだと気が付いて。 はっとして俺は、急ぎ靴を脱ぎ捨て… 奥へと向かおうとした矢先に────… ガシャ─────ン…!!! 『あっ…つッ……!』 キッチンから、けたたましい金属音が響いたかと思うと。すぐさま円サンの悲痛な声が耳に届いた。 「円サン…!!」 勢い良くリビングのドアを開け放ち、 キッチンへと駆けつけると… 「つぅ……ッ…」 床に散乱した鍋には、 もくもくと蒸気が立ち込めていて。 そのすぐ横で苦しそうに(うずくま)る… 円サンの姿があった。 「円サン…!大丈夫ですかっ!?」 「…昴くっ……」 エプロンを身に着けた円サンは、 俺の声に気付いてこちらを見上げると… バツが悪そうに顔を歪めたかと思えば。 途端に目尻に涙を浮かべ始めた。 「…ごめッ…オレっ……」 何か告げようとする円サンを遮り、 俺は赤くなった手を取って、シンクへと導く。 「昴クンっ…」 「…いいから、先に冷やして。」 水道から水を出し、円サンの火傷した手を冷やす。 手の甲全体がうっすら赤くなってはいたが… 大事には至らないようだった。 「他に…怪我は?」 顔覗き込むと…節目がちにも首を横に振って答えた円サンに、ホッと胸を撫で下ろす。 改めてキッチンを見渡せば… 辺り一面なんとも悲惨な状態で。 床は水浸し、シンクには焦げた鍋が幾つか放置され… まな板上には皮も剥かずぶつ切りにされた、野菜らしき物体が散らばっていた。 「急に…どうしたんですか…?」 不器用だからと、今までまともに台所へ立つことなんてなかったのに。 元気なく項垂れる円サンに問えば、 小刻みに肩を震わせて。 ぽたぽたとシンクの中に、涙の粒を落としていった。 「ご飯っ…作りたくって…」 嗚咽混じりに、必死で答える円サンを黙って見守る。 「オレだけ何にもしてあげられないしっ、昴クンも忙しそうだから、何かお手伝いしなきゃって…」 「……………」 「オレなんにも取り柄ない、しっ…バイトのオーナーさん美人で、昴クンとスッゴくお似合いだったから…俺不安で、怖くなって…」 本格的に泣き出してしまった円サンを目に。 堪らなくなるオレは、頭を抱き寄せ…くしゃりと優しく撫でてあげる。 すると円サンは躊躇いながらも。 俺の胸へ、おずおずと擦り寄ってきてくれた。 それは久し振りの、欲して止まない恋人からの接触…。 「ごめっ…オレ、結局何にも出来なかった…ホントにごめんねっ…」 「円サン…」 「きっ、キライにならないで…オレ、もっともっと頑張るからっ!だから────」 耐え切れず、その唇を塞ぐ。 無我夢中で口内に侵入し…舌を絡めれば。 流れっ放しの水音に混じって、 荒々しいキスの音がキッチンへと響き渡った。

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