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side.Madoka
「そっか…昴クンのコーヒー飲みに来たんだけどなぁ~。」
暇な時間帯に来たつもりだったけど…
夏休み中だからか、店内は思ったより若いお客さんで賑わっているし…
これも昴クンや晃亮クン達の、イケメン効果なんだろうか?
「コーヒーか…すばる、練習してたからな。」
「え…?」
「まどかに飲ませるって、ずっと頑張ってた。」
またも第三者から明かされる新事実に、
オレは頭に血が登ってクラクラしてしまう。
…ホント、オレって何に対して悩んでたんだろうね。
「もうすぐ客も引く。昴もそのうち来るだろう。」
晃亮クンに励まされる日が来るとは…
なんだか不思議な感覚ながらも。
そこはありがたく受け止め頷いた。
時刻は午後2時を回り、
チラホラと帰っていく客を見送っていると…
「あれ、兄ちゃん?」
入り口から現れたのはオレの兄、篠宮 遥と────
「円ちゃん~!」
目が合うなり、もの凄い勢いで抱き付いてきたのは。
オレの悩みの元凶とも言える人物にして、
この店のオーナーだという…忍サン、だった。
「あ、えとっ…あの……」
この美人さんは兄ちゃんの親友であり、
学生時代から良くオレの実家にも、遊びに来てたようで…顔見知りらしいのだけど。
オレってば、全然覚えてないんだよな~…
「コラ、はしゃぐな忍。」
突然の包容に、オロオロしてると…
兄ちゃんが苦笑混じりに助け舟を出してくれて。
忍サンはゴメンね~と舌を見せながら、
名残惜しそうに離れていった。
「なんで兄ちゃんがいんの?仕事は?」
社会人に夏休みなんてほぼないんだし、
今だって平日の昼間なんだけど…。
不思議に思い疑問をぶつけてみると。
兄ちゃんは疲れたようにまた苦笑いして、溜め息を漏らした。
「出先からの帰りに、たまたまコイツに捕まってな…コーヒー奢るからって、無理矢理連れて来られたんだよ。」
そう説明して、兄ちゃんは晃亮クンの方へ歩み寄り。
ひと言ふた言会話した後、ごく当たり前な流れで頭をガジガジと撫で始める。
晃亮クンも、うちの兄ちゃんには凄く気を許してるみたいで。兄ちゃんを前にすると、表情がとても穏やかになったから…
なんだか微笑ましい光景だなぁ…。
「円ちゃん、ちっともお店に来てくんないから~私スッゴく寂しかったのよ~!」
前回同様、
ハイテンションで捲し立てる忍サンに気圧されるオレ。
外見はモデル体型のクールビューティーなのに。
意外とテンション高めなんだよね…。
「忍は昔っから円、円ってうるさかったからなぁ~。」
晃亮クンとじゃれあっていた筈の兄ちゃんが、
オレと忍サンの会話に加わる。
「だって円ちゃん、お菓子上げると“忍クン大好き~”っていつもほっぺにチューしてくれたのよ~?」
忍サンが昔を懐かしむように、両手を組んで天を仰ぐ。
ん?アレ?…
なんだろ、何かすっごく引っ掛かるんだけど…
「ほっぺにチューって…どういう事ですかっ!?」
どこからともなくやって来た昴クンにより、
思考を阻まれてしまう。
「あ、昴クンっ…!」
漸く会えた恋人に、顔をフニャリと綻ばせると。
昴クンもにっこり返してくれたけれど…
しかし、昴クンはすぐさま真顔に戻ると…
上司である忍サンへとグイグイ詰め寄った。
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