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第23話 止まらない嫌がらせ

 嫌がらせコメントはその一回で終わるかと思っていた。しかしその後も二名以上で食事したことがわかる写真の投稿に対して必ずと言っていいほど悪意あるコメントが送られてきた。内容は最初と同じような調子で「セレブぶるな」とか「彼の恋人のつもり?」などというものだった。 ――何が目的なんだろう?  夕希は実生活において取引先に怒鳴られることも少なくない。だから嫌なことは言われ慣れていたが、SNSのコメントは相手の顔も見えないし文字として残るのが怖かった。しかも、気がかりなのがこのコメントをした人物が隼一の存在に気づいているのではないかという点だ。  仕事帰りに電車の中で画像投稿アプリを確認する。昨日アップした画像についたコメントは四件。 「私もここのお店大好きです」とか「美味しそう」という好意的な内容の次に例のアカウントからコメントが来ていた。 ――うわ、まただよ……って、これは……? 『この手Wさんだよね。彼のSNSにタイミング合わせて投稿なんて匂わせにも程がある。恋人ならはっきり言えば? もしかしてパパ活?』 「パッ……!」  夕希は驚いて電車内でつい声を出しかけ、慌てて口を手で押さえた。 ――パパ活!? 何それ、僕がなんでそんなことしてるなんて言われないといけないんだよ。  あんまりな書かれ方にショックで心臓がバクバクと鳴る。まさか、この人だけじゃなくて他の人達にもそう思われているのだろうか。急に高級店ばかり行くようになったから何か裏があると勘ぐる人もいるのかもしれない。だけど夕希の実態はアラサーのサラリーマンだ。 「はぁ……」  会社の仕事も忙しいし、退職のことを上司にそろそろ話さないといけない時期だった。しかも退職までにコラムニストの仕事をできるようになりたくて焦っている。そんなときに婚約者から気味の悪い贈り物が届いた。この通り現実世界のことだけでも頭が痛いというのに、SNSにまで悩まされるだなんて――。  これまでは夕希も隼一みたいに有名になって、フォロワー何千人、何万人超えを目指したいと思っていた。だけど五百人程度のフォロワー数でこの有り様だ。  このコメントを見て、今までそんなふうに思っていなかった他のフォロワーが夕希のことを変な目で見るようになるかもしれない。  夕希は否定の返信をするのはやめて、ただ削除することにした。 ――それにしても、Wさんって書いてあったということはやっぱり鷲尾隼一だとバレてるってことだよね。『彼のSNSと合わせて』って書いてたけど……?  以前は夕希も隼一のSNSをこまめにチェックしていた。だけど最近彼とはかなりの頻度で直に会っているし、お店にも大体一緒に行ってるのであまりSNSの方は見なくなっていた。彼と同じ料理を実際目にしているし、彼が味について言及しているとしたら、それは夕希自身が伝えた匂いや味なのだ。だからあえてSNSで見る必要がなかった。  彼のアカウントの画像を見ると、たしかに同じような日程で一緒に行ったお店の写真が掲載されていた。夕希の手や服の一部が写っているものもある。 ――なるほどね、隼一さんのファンがたまたまこれを見て僕のアカウントに辿り着いて気づいたってわけか。  実際彼とは仕事のために一緒にいるだけだし、当然恋愛関係でもない。二人で食事していることが世間に知れてまずいことなんて無いと思っていたのに、変に勘ぐる人がいるものだ。  些細なことだし、ざっと見たところ隼一側のアカウントには例の相手からおかしなコメントは付いていないようだった。少し迷ったけど、すぐに隼一に伝えて彼をわずらわせるほどのことでもないだろうと夕希は判断した。 ――とりあえずコメント削除かな……。

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