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夢見る俺たちのクリスマス (5)

「ーーっていう夢だったんです!」  と、全力で叫んだ俺に突き刺さったのは、  「……」  冷たすぎる非難の眼差しだった。  変態変態変態変態変態。  降り注ぐ視線が、明確な言葉になって俺に伝わってくる。 「この際、俺の願望がダダ漏れの夢だったことは否定しません!」  ちっこい理人さんとか、『佐藤』とか、『プレゼントは俺』とか。 「でも、百合ちゃんはただの幼馴染み役での友情出演だったし!」 「……」 「なんなら、俺と理人さんのことを応援してくれてたし!」 「……」 「がこんな風に元気になっちゃったのは、理人さんとのあれやこれが原因で、決して百合ちゃんとアハンウフン的な何かがあったわけでは……って、あ、ちょっと、理人さーん!」  ベッドに正座していたせいで、完全に反応が遅れた。  俺が手を伸ばした時にはもう理人さんが寝室から出ていくところで、俺は扉が乱暴に閉じられるのをただ見守るしかなかった。  あれ。  もしかして、ドン引きされた……?  高校生の理人さんに会ってみたいという願望が過ぎて、夢にまで見てしまうなんて自分でもどうかと思うけど! 『お姫様抱っこで颯爽と助けて以来懐かれて……』って、自分で『颯爽と』とか盛っちゃってんじゃないよとかも思うけど!  夢なんてコントロールできるモノじゃないし、そもそも百合ちゃんとのアハンウフンは完全に濡れ衣でーー 「あ、理人さん!」  カチャリと音がして、扉が開いたと思ったら、 「……えッ!?」  制服姿の理人さんがいた。  見覚えのあるブレザーとズボンに身を包んだ理人さんは、部屋に入ってきても俺と目を合わせようとしない。  でも、横顔からでもわかるほど唇がひん曲がっていて、ものすごく機嫌が悪いことだけはよくわかった。  うーん。  久しぶりに見るけど、やっぱり制服似合うな……じゃなくて!  夢での学ラン姿も良かったけど、ブレザーの方が理人さんぽい……でもなくて! 「ま、理人さん? それ、どうし……」 「佐藤先輩」 「……へ」 「俺はこんなにも先輩のことが好きなのに、先輩はいつも百合ちゃん百合ちゃんって百合ちゃん先輩のことばっかり」 「へ? え? えっ!?」  芝居がかった口調で文句を言いながら、理人さんがベッドにのしかかってきた。  思わずと、一気に距離を詰められる。  そして、 「っ」  また、俺のソレを鷲掴みにした。  え、何をって?  だから、をだよッ……! 「ちょ、理人さんッ」  布の上にあった手をするりと下着の中に滑り込ませ、半分起き上がっていたソレを探り当てると、そのままぬこぬこと上下に扱かれる。 「あっ……」 「佐藤くんは、分かってない……」  鼓膜を揺らした声があまりに哀しげで、閉じていた瞼を押し上げる。  するとそこには、今にも泣き出しそうな理人さんがいた。 「理人さん……?」 「幼馴染み役とか、友情出演とか、そんなの関係ない」 「え……」 「百合ちゃんが佐藤くんの夢に出てくるの……やだ」  ……あ。  ああ!  なんだ、そっかあ。  理人さん、嫉妬してたのかあ。  かわいいなあ。  かわいい。  あ、今、俺、絶対かわいい二回言ったな。  でも、しょうがない。  ほんとに、かわいいんだから。  それに、分かってないのは理人さんも同じだ。  もし俺たち三人が同じ高校に通っていたとしたら、百合ちゃんの恋の相手は俺じゃなくて理人さんだったに違いない。  だって、こんなかわいい理人さんに出会って好きにならない方が無理ゲーってやつだ。  それなのに本人にはまったく自覚なくて、俺の夢にまで嫉妬しちゃうなんて。  かわいい。  ああ、かわいい。  かわいいなあ、こんちくしょう。  ……なんて完全に浮かれポンチしていた俺の脳は、あろうことか、今ここで絶対に出してはいけない音を俺の声に乗せてしまった。 「プッ……」  プチッ。 「……あ」  やば。  さっきのは、切れた音だ。  理人さんの、堪忍袋の緒が……! 「ま、待って! 待って理人さん! さっきのはっ……」 「佐藤くんは『プレゼントはお・れ♡』がいいんだったよな?」 「へ!? いや、違っ……違わないけど、絶対違う!」 「喜べ。今年のクリスマスプレゼントは『こ・れ♡』だ」  満面の笑みを浮かべた理人さんの手が握っていたのは、  いたのは……! 「そ、それ、昨夜俺が理人さんに突っ込んだやつーー」 「安心しろ。ちゃんと洗ったし、なんなら消毒もしたし、ローションもたっぷり塗った」 「じゃなくてッ! それ、理人さんが『これやだあ! 抜いて、抜けよぉっ……もう、戻れなくなるからあ……ッ』ってヒィヒィ泣きながら善がってたやつじゃないですか! 俺、理人さんのことは大好きだし、愛してますけど! 理人さんが望むなら、こっち側でもそっち側でも、いつでもどうぞって思ってはいますけど! 戻れなくなるところまでは、まだ心の準備ができてなーー」 「安心しろ。優しくしてやる」 「理人さん! 俺の話を聞ーー」 「メリー・クリスマス」 「あ、あーーッ!」  その後決死の思いで臨んだ交渉の場(ベッドの上)で、理人さんが『佐藤くんの手作りクリームソーダ1ヶ月分で和解してやる』なんて言ってくるから、結局俺はまた「かわいい」しか言えなくなってしまうのだった。  fin

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