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朝五は夜鳥と付き合うことになった複雑な経緯と腹に据えかねていたこの一ヶ月の不満を、かいつまんで説明した。
説明が進むにつれ、文紀は眉間に深いシワを刻んでいく。
終わる頃には、心底意味がわからないとでも言いたげに文紀はうげぇと舌を出した。
「朝五。悪いことは言わねぇからそいつのことは忘れろ。ゲイだって本気なんだよ。舐めた真似する男はいらん。スマホ貸せ。ブロックしてやる」
「ちょっ、ダメダメ!」
思いっきり悪印象だ。
何事もバッサリと決断して行動する文紀には、夜鳥が酷く不誠実な口だけの男に見えたらしい。
表情筋を総動員して不機嫌をあらわに手を出され、焦った朝五は素早く自分のスマホを抱いて隠す。
「ダメ? 笑えねージョークだな」
「なんも話聞いてねぇもんよっ。別れるんだったら一発殴るし?」
「避けられてんのにか? 見つけ次第俺が殴っといてやるからさっさと寄越せ。滅殺する。つーかだいたいお前もいちいち真面目に付き合いすぎなんじゃねぇの? どう考えても地雷案件だろうが」
「いやいや、仮にも恋人なんだから真面目に付き合うのがスタンダードっしょ!? ミキティが修羅過ぎんだわっ」
ミキティというのは、朝五が命名した文紀のあだ名だ。
恋しい相手の唯一無二のナンバーワンになりたい朝五にとって、浮気せず恋人に向き合うことは至極当然である。
修羅扱いされた文紀がため息を吐く。
「その性格、今んとこ悪いようにしか働いてねーと思うけど?」
「ソッスネ。でもなにが悪ぃのかわかんね。俺悪くねーし。愛してるから恋人至上主義とかむしろ良きすぎん?」
「依存気質だけど、悪かねぇよ」
「じゃあなんで俺フラれんの?」
「あー……俺が思うに、お前に好かれっとわかりやすく好き好き~ってオーラが甘ったるくて相手が胡坐かいちまうんだよ。見てくれもまあイケてて、なんでもイイネってタイプだろ? ノリが軽いからな。そんなお前が一途で重めのロマンチストとかイメージねーし。だから毎度テキトーぶっこかれんだろ。知らんけど」
「なにそれ地獄かよ〜……マジ意味わかんねぇの極み~……」
理不尽な傷に指を突っ込まれた朝五は、再度机に突っ伏した。
意気消沈した朝五の脳裏に、あの日の夜鳥の薄い微笑みが浮かぶ。
ファッションを楽しむ朝五の印象は、軽薄に見える。
調子のいい話し方も態度も格好つける性格も恋人がコロコロと変わる恋愛事情も、〝好きな人の一番になりたい〟という夢のような思考とは結びつかない。
自覚はあるがそれらはただの趣味と努力で、性質で、フラれ癖があるだけだ。
(アイツも俺のこと、遊んでもいい人間だって思ったんかなー……)
胸の傷からドロリと膿が滲んだ時──ポケットに隠したスマホがブブ、と震えた。
夜遅くでも気の置けない友人がなにかメッセージでも送ったのかと決めつけ、緩慢な動きでスマホを開く。
『明日、十時に✕✕駅の前で』
相手は、夜鳥だった。
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