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 それからディナーにとオシャレなブラジル料理店へ連れてこられた頃になると、朝五はすっかり疲れ果ててしまっていた。  店内の雰囲気も料理もオシャレなのに学生の財布にはそれほど重くない価格設定。器用にムードを作るデートコース。  大きな体に似合わずどこか幼い印象を受けていた夜鳥とは、まるで合致しない。  一度目の出会いも二度目の出会いも空気が読めない行動ばかりだったはずが、人が変わったようだ。  不信感だけが募る時間が苦痛で、腹が減っていないと言い張り早々にディナーを終わらせる。  支払いはいつの間にか夜鳥が済ませてくれていたが、それに文句をつける気力も今は湧きそうになかった。 「朝五、疲れた?」 「めちゃんこ疲れた」 「そっか。休憩する? それとも帰る? 帰るなら俺、送るよ」 「あー……うん」  デートの最後に休憩を誘われる意味に気が付かないほど、朝五は子どもじゃない。  曖昧に返事をして逡巡していると、夜鳥の手の力が強くなる。それに、表情が少しこわばっているように見えた。 「嫌……?」  常に余裕を崩さなかった夜鳥の声が、微かに上擦っていた。  朝五が行為を渋っていると感じて化けの皮が剥がれそうなのか。  それはつまり、目的がそこにあったのか。  わざわざ男に手を出すなんて物好きだと笑えなくて、勝手につけた一番嫌な答えにいっそう悲しみが増した。  あの日、朝五の恋人になれたとわかって見せた夜鳥の笑顔で打たれた胸が、ジュクリと膿んで痛む。  ──お前はヤれなきゃ用済みだとわかるように言われるのは、結構キツイ。 「……いーよ」 「よかった」  頷くと、夜鳥の表情がいつも通りの微笑みに戻って、目を伏せた。  簡単に体を明け渡したいわけじゃないが、体の大きな夜鳥に激昂されるのは困る。恋人同士ならば断る理由もなかった。  だからいいと言った。  それだけだ。本当にそれだけだ。  口数がめっきり減った朝五を気にかける夜鳥に手を引かれるがまま、ブラブラと夜の街を歩く。足取りに迷いがない。  夜鳥が向かう方向には朝五もよくお世話になっていた、男同士でも問題がないラブホテルがあるのだ。 (やっぱ、慣れてんじゃん)  スムーズにホテルにたどり着いて粛々と受け付けを終わらせた夜鳥は、ホテルの一室へ朝五を招き入れた。  背後でバタンとドアが閉まる。  これでもう、簡単には出られない。 「凄く楽しみだったから嬉しいよ。朝五はとっても、魅力的だから」  明かりのスイッチを入れる夜鳥の言葉に、朝五は手のひらを握り締めた。  楽しみにしていたのはデートではなくセックスで、魅力的なのは簡単に開きそうな身体だから、と翻訳してしまう。 「夜鳥はさ、俺のこと抱きてーの?」  そんなヘドロじみた疑惑を払拭しようと、最後の悪あがきをした。 「そ……れは、できれば抱きたいかな」  上着をかけていた夜鳥は、一瞬動きを止めて振り向くことなく答える。 「じゃあ、初めからそのつもりで俺をデートに誘ったってことなのな」 「そのつもり……うん。恋人になったら、こういうことをするんでしょ?」  当然のように尋ねられた。朝五はもう、なにも言えない。  いかがわしい室内灯の下で無言のまま荷物と上着を置き、ベッドに腰を下ろす。

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