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第36話

「弥生兄さまも、優さまもそれくらいにしてください。その、色々恥ずかしいです」  過去の葬り去ってしまいたい失敗談も、弥生の手を嘗め回さんとしている優も、それに全く動じず手を引っ込めようともしない弥生の姿を見るのも、何もかもが恥ずかしくて居たたまれない。そんな雪也に優と弥生は不思議そうな顔をし、先程から我関せずと鍋や握り飯を食べていた紫呉は呆れたように軽く手を振った。 「雪也、あいつらのことは気にするだけ無駄だぞ。なんせ年がら年中この調子なんだからよ。あいつらにとっちゃお前の失敗談なんてむしろ言いふらしたいくらい可愛いもんだし、ああやって触れ合うのなんてそれこそいつものことだ。あれで通常運転なんだから、独り身にはほんと毒だよなぁ」  ほらほら、気にせずお前は肉を食え! と雪也の椀に肉を入れる紫呉に、雪也は苦笑するしかない。本人達の口から聞いたことは無いが、やはり弥生と優は恋仲であるらしい。それは屋敷にいた時から、それも早々に雪也もどこかで勘づいていた。なにせ彼らは紫呉の言う通りところかまわず寄り添い、あのように世の中の夫婦でもめったにしないような触れ合いを平然としているのだから。ただ言葉にされなかったため確証がなかったに過ぎない。そしてそんな彼らに振り回されている紫呉は、やはり結婚もしていなければ恋人もいないらしい。ならば彼の愛用している槍が恋人だと紫呉が豪語しているという噂も、もしや本当なのだろうか? しかしそれを確認するだけの度胸など雪也にはない。  紫呉が怖いのではなく、それを聞いた瞬間に嬉々として紫呉を揶揄うであろう弥生が恐ろしくて。

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