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第38話

 弥生の仕える城の主、この国の実質的な支配者である将軍の正室――御台所は公家の姫君を娶ることが通例だ。先代将軍の御台所はその生まれこそ公家ではなく藩主の娘であるが、輿入れ前に公家の養女になっているため、書類上は例外ではない。それは京の都におわす帝との関係を結ぶためのものであるのだが、公家の姫君ではなく宮様が嫁いでくるなど聞いたことがない。だが不思議そうに首を傾げている雪也に、弥生は肯定するようにひとつ頷いた。 「今回は宮様だ。幕府と朝廷との絆を深めるため、今上帝の異母妹にあたる宮様がお輿入れになる。当然、お迎えする我々の方にも失敗は許されんからな。念には念を入れてお迎えせねばならん。なにせ上様は征夷大将軍であらせられるが、お輿入れになる宮様は正式に内親王に奉ぜられた方だ。当然、上様よりもご身分は上になる。扱いも、今までの御台様と同じというわけにはいくまい」  何やら難しく複雑な話に雪也は思わず瞼を伏せる。雪也には幕臣の苦労や心労はわからず想像することしかできないが、しばらくは弥生が苦労することだけは理解できる。

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