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第40話

「存外したたか、だなんて。ふふふ、弥生は見た目通り充分にしたたかだよ。弥生をしたたかじゃないなんて思うのは雪也くらいだろう。雪也は心が綺麗だからね」  微笑みながらそんなことを言う優に、紫呉はたまらず噴き出した。ゲホゲホと咽ている紫呉に雪也は慌てて湯呑を差し出すが、弥生は冷めた目で紫呉を見つめ、そして紫呉の椀に無言で七味を大量に投入した。紫呉の椀が真っ赤に染まっているのを見て雪也は顔を引きつらせる。  これは、食べられるのか?  そんな雪也の声にならない疑問に、弥生はニコリと菩薩とも思えるほどに優しい笑みを浮かべた。 「なに、紫呉ならばこの程度、残さず食べることなど造作もない」 「いや普通に無理なんだが」  優しい微笑みで地獄に落とそうとする弥生に、紫呉は真っ赤になった椀を凝視しながら呟いた。箸を動かすこともできない紫呉に優が優しく微笑む。 「胃薬なら屋敷に用意してあるから安心して良いよ」  決して救いの手にはならないその言葉に雪也は乾いた笑いを零す。優の性格を知っている為に予想できた展開ではあるが、なんと哀れな。

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