「それは人の心があるということだ。謝る必要などない。むしろ誇るべきであろう」 　怒声と共に悲鳴が聞こえれば誰でも気になるだろう。それを探って何も得られるものが無く諦めることを人非人だと思うことはしないが、同時にそれでも気になると思うことは恥じて謝ることではない。 「あそこはあまり良い噂は聞かないが、私はしょせん噂しか知らない。こういったことは優や紫呉の方が詳しいだろう」 　そう言って弥生が視線を向ければ、優は苦笑し、紫呉は心底嫌なことを思い出したというように視線を鋭くさせている。 「あそこはね、主人が気難しやの癇癪もちで、しかも小物なんだ。立場が下の者にはどこまでも偉ぶれるし横柄にもなれるけど、上の者にはへこへこして媚びを売る。だから弥生が噂以外に何も知らなくても当たり前かな」 　いかによく町を歩いていても、弥生は将軍にもお目見えできる近臣だ。優が小物だと言うのなら、そんな弥生相手に本性を見せることができるほどの度胸は無いだろう。