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第57話

 己の掌が一瞬で真っ赤に染まったのだから、それは当たり前と言えば当たり前だった。しかし現実に突きつけられた光景に、雪也は思わず手を止める。  真っ赤な、真っ赤な背中だった。肌色などどこにもない、赤々と濡れるその背中は今も傷口から血を流していることが窺える。  この血を止めなければ、彼は死んでしまう。そう思った瞬間に、雪也は素早く立ち上がった。庵の外へ走り井戸から水を汲んで、できるだけ清潔な布をかき集める。薬など後だ。  あまりに出血が多く傷口がどこかもわからないので、雪也は傷口に触れぬよう慎重に水で濡らした布で血を拭きとっていく。縫わなくてもよい傷であれば良いのだが、と心の中で祈りながら何度も何度も布を水に浸して血を拭きとる。そしてようやく見つけた傷口に新しい布を当て、手できつく抑え込んだ。縫合のできない雪也ができる止血方だと、優がもしもの時の為に教えてくれたものだ。 (とまれ……、とまってッ……)  縋るように胸の内で何度も念じるように叫ぶ。先を考えれば考えるほど恐ろしく悲しい未来しか浮かばなくて、雪也は思わず涙を浮かべ唇を噛んだ。

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