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第62話

「……とりあえず、水飲もう。今も熱があるし、気づいていないのかもしれないけど、喉は乾いていると思うよ」  さぁ、と優しい手が傷に障らぬよう少年を僅かに抱き起し湯呑を口元に近づける。ゆっくりと流し込まれる水は少し冷たくて、どこか身体の重さが少し消えたような気がした。美しい青年の言う通り、身体は随分と乾いていたらしい。 「何か食べられる? 身体が辛いかもしれないけど、薬を飲むためにも何か胃に入れた方が良いんだけど」  おかゆとかならどうだろう、と立ち上がりかけた青年に、少年は思わず手を伸ばした。ギシギシと音が鳴りそうなほどに鈍い動きしかできない己に腹立たしさを覚えながらも、その手はしっかりと青年の袖を掴んでいる。立ち上がりかけた不自然な体勢のまま、青年はキョトンと不思議そうに首を傾げた。そんな二人の様子に、クスリと小さな笑い声が聞こえる。見れば青年と向かい合って座っていた、この場では一番の年配であろう、それでも年若い男が口元に手をあてて控えめに肩を震わせていた。 「おかゆは後で僕が作ってあげるから、雪也はもう少し傍にいてあげたら? それに、現状の説明もしてあげないと彼は自分が死んだと思っているようだよ」  雪也という名らしい美しい青年に座っていなさいと肩をポンと軽く叩いて、男は踵を返した。とはいえ、室内はさほど広いわけではないので、男の背中が視界から消えることは無い。

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