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第79話

「おいで。とりあえず冷やそう」 「……ごめんなさい」  井戸へ行こうと手を引くが、周はただ謝罪を繰り返すばかりだ。元々口数が多い方ではないので、おそらくはそれ以上の何を言って良いのかわからないのだろう。 「わかったよ。話はちゃんと聞くから、とりあえず冷やそう。痛いだろう?」  さぁ、と促してようやく立ち上がった周を井戸に連れて行く。水を汲んで杓子で赤くなった手にかければ、やはり少しは痛いのだろう、周はほんのわずかに眉根を寄せた。 「火傷をしたら、こうして冷やすんだ。薬も塗るけど、まずは冷やさないと。大したことないって甘く見ずに、必ず手当するんだよ?」  何度も杓子で患部を冷やす雪也の声音はどこまでも穏やかで、周はどうしたら良いかわからずに視線を彷徨わせた。  明らかに、周は悪いことをした。悪い事をしようと思ってしたわけではないけれど、結局貴重な米を台無しにしたばかりか釜を焦げ付かせ、庵の中に煙と臭いを充満させてしまった。  してやろうと思ったわけではないけれど、失敗は失敗。思いがどんなものであれ結果が全てで、きっとひどく叱責されて失望されると、悪ければ庵を追い出され二度と姿を見ることも叶わないかもしれないと周は破裂しそうなほどに心臓を鳴らしていたというのに、雪也は終始穏やかで、その美しい顔は憤怒どころか心配の色を濃く浮かべている。

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