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第83話
「そうだよね、周だって自分でご飯を作りたい時だってあるだろうから、教えてあげればよかった。ずっと教えられる立場だったから、すっかり失念してたよ」
今まで雪也の周りには、雪也以上にたくさんの事を知っている人たちばかりがいた。雪也は教えられる立場であって、何かを教える立場になかった。今回の事が無ければこれから先もその考えには至らなかっただろう。
周とて食べたいものはあるだろうし、雪也がいない時に腹が減ることもあるだろう。それなのに自分で作れないとあっては不便極まりない。
「あともうちょっとで終わるから、そうしたらご飯の炊き方から教えてあげる。いっこいっこ覚えていったら、出来ることもいつの間にか増えていくよ」
よし、出来たと雪也は立ち上がり大きく伸びをした。
「さぁ、中に入ろう」
井戸から水を汲んで、片手に釜を持ち、もう片手で水桶を掴む。華奢な身体でそれらを持つ雪也に周は慌てるが、彼は慣れているのか危なげなく庵の方へ足を進めていた。
「今日は僕と周の二人だから、お米はこれくらい。それから何度か水でお米を研いで、こうやって流すとお米は逃げないから」
ひとつひとつゆっくりと、雪也が弥生に教わった時をなぞるように言葉を紡ぐ。それを真剣に見つめる周に、雪也は小さく微笑んだ。
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