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第94話
「どうしたの? 何かあった」
なるべく優しく聞こえるよう紡げば、周はようやく顔を上げる。ジッと雪也を見つめて、そして無言のまま背中に隠していたものを差し出した。
「これ……」
周の手にあったのは、一枚の皿だった。その上に、なんとも歪な米の塊が幾つも乗せられている。形こそ歪で皿のところどころに米粒が飛んでいるが、それでも米は白く艶やかで、美味しそうに炊けていた。もしや、と雪也は周を見る。
「これ、周が作ってくれたの? お米、炊いてくれたの?」
問いかければ、コクンと周が頷く。ほんのりと耳が赤くなっているところを見るに、少し照れているらしい。
「すごく美味しそうに炊けている。これ、食べて良い?」
笑わないようにと思っているのだろうか? 周は唇を噛みながら、またコクンとひとつ頷いた。
いただきます、と雪也は歪な米の塊をそっと掴みかぶりつく。ボロボロと崩れそうなそれに気をつけながらも咀嚼すれば、甘い中にほんのわずかしょっぱいものがあった。思わず、雪也の唇が笑みを浮かべる。
「美味しい」
形は歪で、ところどころ塩が固まっていたりするが、それでもこれは美味しいおにぎりだった。美味しい、美味しいとおにぎりにパクつけば、周はハッと顔を上げてその姿をジッと見つめている。そして恥ずかしそうにモジモジしながらも、その顔は笑みを浮かべていた。
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