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第170話

 微笑むだけで何も言わないでいる蒼の姿に何かを察したのだろう、湊は若者らしい笑みを浮かべて雪也に顔を近づけた。 「ま、そんな難しいことは置いといてさ。ここに来たってことは、夕飯の買い出しか何かだろう? 今日は何食べるの?」  やんわりと話を変えた湊に蒼はニコニコと微笑み、チラと売り物である野菜たちに視線を向ける。雪也も気遣われたことは理解したのか、申し訳なさそうにしながらもその事には触れず、湊の質問に答えた。 「あったらキュウリと白菜、たまご、豆腐を買ってきてってお願いされたから、よくわからないけど豆腐のお味噌汁とたまごとお肉を使った何かかな? 最近はずっと周が作ってくれているから、深くは聞いてなくて。でも朝に紫呉さまが鶏肉を届けてくださったから、それを使うのだと思う。キュウリと白菜はお漬物用だろうね」  同居人と同居犬がいるから何かと量がいると、大変そうに言いながらも楽しそうに笑う雪也に、ふーんと相槌を打ちながらも湊の瞳は寂しそうに揺れる。そんな瞳に鋭く気づいた雪也は、表に出さないままに内心で首を傾げた。チラと蒼に視線を向ければ、蒼もどこか寂しそうな瞳を揺らしながら苦笑している。だが今ここで根掘り葉掘り聞くべきではないだろうと、雪也は優しい笑みを浮かべた。

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