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第194話
「大丈夫。紫呉さまが由弦と湊を千切っては投げ、千切っては投げをしているだけだから。多分組手? しているんだろうけど、紫呉さまが相手なら二人がかりでも分が悪いかな。二人とも紫呉さまに近づいた瞬間に投げ飛ばされていたよ。あれじゃぁ由弦も湊も着物はボロボロになるだろうね」
投げられている由弦と湊は非常に楽しそうだったけれど、と雪也は苦笑する。その声を聞いていた弥生は盛大にため息をついた。
「まったく、相変わらず紫呉のやることは荒いな。優、これは傷薬を用意しておいた方がよさそうだぞ」
屋敷に帰ったら小さくなった着物も探しておくか、と弥生がこめかみに指をあてれば、クスリと笑った優がやんわりと弥生の手を離し、クリクリとこめかみを指圧し始めた。
「傷薬程度なら持ち歩いているから心配はないよ。そもそも紫呉に繊細さなんか求めたって無理なんだから、そう怒っちゃ駄目だよ。紫呉はあれで良いんだ。多少着物はボロボロになるかもしれないけど、子供にはああいう体験も必要だよ。ほら、由弦も湊も楽しそうだしね」
何にも気にしなくて良い。薬も手当も着物も、全部優がどうにかする。だから弥生はゆったりと構えていれば良いのだと言う優の手に身をゆだねながら、弥生は苦笑した。
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