210 / 647

第209話

「もうよろしいのですか?」  もっと長くなるかと思っていた弥生は問いかけるが、茂秋はもちろんだと言って弥生を促した。 「あまり長いと離れがたくなるであろう? 用事が終われば城に帰ってくるのだから、その時に充分と時間がとれるよう、早く行って早く帰ってこよう。姫宮様にも土産を買ってくると約束したからな」  籠が用意されている門へと向かいながら言う茂秋は笑みを浮かべていて、時間はさほど長くなかったが充分に別れを惜しむことができたようだ。その事に弥生は微笑んで、少し揶揄うように口を開いた。 「お熱いことですね。最初はどうなることかと心配しておりましたが、安心いたしました。それで、姫宮様には何を土産にされるのです?」  将軍である茂秋は多くの物を手に入れることができるだろうが、相手は姫宮。下手な物は贈れない。いったい何にするのだろうと軽い気持ちで問いかけた弥生の目に、それはそれは優しい笑みを浮かべる茂秋の姿が映った。 「絹の衣だ。宮様に似合いのものを見てこようと思う」  なるほど、と弥生は胸の内で頷く。華都では美しい絹織物を重ねて纏うのが雅であるとの伝統がある。華都より降嫁してきた姫宮様には華都で織られた絹は懐かしく、また衛府に来て様々な混乱にあるその心を慰めるものになるだろう。 「とてもお喜びになられましょう」

ともだちにシェアしよう!