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第211話
「上様にそこまでのご信頼をいただけているという証なれば、我が身の誉れと思いこそすれ、不本意だなどとは思いません。姫宮様のことは私も色々聞き及んでおりますから心配ではございますが、そもそも大奥に関われる男は上様のみ。私が残ったところでさしたるお支えにはなれますまい。庵の者たちとて、若くはございますが、もう大人です。物の分別はついているのですから、私達が長期で顔を見せることができずとも、理由も告げているのですから問題はございません。もちろん、私共も」
口ではそんなことを言いながら、弥生は胸の内で紫呉と由弦に詫びる。仕方がないと二人とも理解し納得はしているだろうが、寂しいことには変わりないだろう。それに、雪也の様子も少し気にかかる。あまりにも長期になるようであれば、弥生は動けずとも優たちはそれなりに自由に動けるので、様子を見に行ってもらうのも良いだろう。後で優と紫呉にその事を相談しようと決めて前を向けば、ようやく行列の前に着いた。
「では上様、近くで騎乗しておりますから、何かありましたらお声掛けください」
「ああ、頼む」
用意された籠に茂秋が乗り込むのを見届けて、その引き戸が閉められたと確認すると弥生は用意されていた馬に跨った。近臣の号令で行列が動き出す。
これから倖玖へ向けて、長い長い旅が始まるのだ。
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