232 / 647
第231話
「友達? 湊とか蒼か?」
由弦はこの庵に来てから外にも出るようになったが、彼が友達と呼ぶ者は庵に住む雪也や周を除けば、湊か蒼しかいない。しかし由弦は紫呉の言葉にブンブンと首を横に振った。
「いや、あの……違うくて、紫呉の知らない人なんだけどさ……」
その瞬間、紫呉は胸の内であぁ、と納得した。ここまでこなければわからない自分も相当に鈍いだろうが、これで騙しとおせると思っている由弦も由弦だ。おそらくこの場に弥生や優がいれば、紫呉にも由弦にも冷めた視線を向けていただろう。現にサクラは半目になってため息をつくように鼻を鳴らしている。だが、幸いな事にこの場には紫呉と由弦の二人しかいない。ならば、由弦の為にも嘘に乗ってやるのも一興だろう。
「悪い悪い、それじゃ誰って聞いてもわかんねぇよな。んで? その友達がどうしたよ」
促され、由弦はホッとしたように小さく息をつく。不安を紛らわせるように袴を弄った。
「その、友達がさ、兄弟で住んでんだけど、血は繋がってなくて。んで、親代わり? になる人が、その内の一人に優しくするの、なんでかモヤモヤするんだって。別に、友達が嫌われたりしてるわけじゃないし、友達も、その兄弟のこと大好きで、大切だって思ってるらしいんだけど、でも、モヤモヤするんだって。それで俺に、そんなこと思うなんて自分は最低かな? って、聞いてきて……」
……。
…………。
………………。
(これで隠せてるって思える由弦は可愛すぎるだろ)
ともだちにシェアしよう!