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第233話

 市井の子供でも弟や妹が産まれれば親をとられたような気がして下の兄弟に嫌な感情を抱くことがある。この内面が幼い由弦は、紫呉をとても慕ってくれていた。今回雪也に対していだいた感情が、親をとられた嫉妬であっても不思議ではない。  さて、どちらだろうか。紫呉としては、もう一つの可能性であることを願うが、こればかりはわからない。おそらくは、由弦自身にもわからないだろう。  ならば、由弦の苦しみを取ってやるのが先決だ。 「その親代わりの人に懐いてたから、兄弟に優しさを与えられたのが嫌だったんだろ? それは兄弟に与えられたのが嫌なんじゃねぇよ。自分に与えてほしかったって、それだけだ。そう思うことは、別に悪い事じゃねぇし、俺からしたら普通のことだ。自分に欲しいし、なんなら自分だけのものにしたい。そう思ったからって、別に薄情でも最低でもねぇよ」  そう思われることは、存外嬉しいことでもある。 「でも……」 「一応、言っておくけどな。俺は弥生や優とは仲が良い。子供の頃からの付き合いだからな。だが、俺が優と楽しく喋ってりゃ弥生は寂しそうにするし、俺が弥生にちょっとでも触った日にゃぁ、優がチクチクチクチク俺に突っかかってきやがる。わかるか? 弥生も優も大人で、俺があの二人に友愛やら主従以外の感情を持たないって全員がわかりきってるのにだ、弥生も優も、互いを独占したいから俺に牙を剥いてくる。その友達の言うモヤモヤを俺に抱えるんだ。わかるか?」

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