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第241話
「じゃぁ末子おばあちゃん、また来ますね。もし何かあったら遠慮せずに呼んでください」
それだけを告げ、雪也は振り返ることなく長屋を出る。そんな雪也の後ろ姿を見つめ深くため息をついた多恵に、末子は眉根を寄せた。
「お多恵、そんな顔をするもんじゃないよ」
「でも、母さん……」
もっと一緒に引き留めてくれても良かったのに、と不満げな顔をする多恵に、今度は末子が深くため息をつく。まったく、もうよい歳だというのに娘はいつまでたっても子供気分が抜けない。
「どんだけ調薬の腕がよくっても、雪也ちゃんは金を持ってるわけでもないし、結婚出来るわけじゃないだろう? あの庵には子供と、変な生き物を連れた男もいるんだ。そんなところに住んでいる雪也ちゃんに懸想して何になるんだい。変な噂がたってもお前が困るだけなんだから、あんまり親しくしたりするんじゃないよ」
末子としてはまだ正式なものではなかったとしても、呉服問屋の息子との縁談があるのだから他の年若い男と噂されるのは避けたい。それに、雪也は安価で薬を調合し届けてくれることに関しては末子にとってありがたい存在ではあるが、安価で売っているからこそ、雪也に金があるとは思えない。娘に貧乏な男と添い遂げてほしいなどとは思えないし、雪也は顔こそ良いが、それだけだ。甲斐性はない。それどころか余計なものまでついてくる。そんな男に娘が近づいたとて百害あって一利なし。本当は、多恵が帰ってくるまでに雪也には帰ってもらうつもりだったのに、思いのほか多恵の帰宅が早かったのは誤算だった。
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