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第250話

 蒼に約束した通り、雪也はいつものように籠を持ちながら蒼の店へと向かった。ようやく店が見えてきた時、表で待っていた蒼の父が手を振ってくる。遅くなっただろうかと小走りに近づけば、気にするなと笑い彼は雪也の頭をポンポンと撫でる。  ポツリポツリと他愛もない話をして、蒼の父と雪也は並んで歩いた。店に出ている者達が気さくに声をかけてくる。それに小さく答えながら話すのはもっぱら蒼と湊のことだ。どうやら湊はときおり蒼の店を手伝っているらしい。それも決まって父は配達や用事で出ており、蒼だけが店番として残っている時だと言う。彼はポリポリと頭を掻きながら苦笑してみせた。 「たぶん、湊って子は賢いんだろうさ。よく見てるし、よくわかってんだろう。自分がどんな姿をしていて、それがどう見られているか。ちゃんとわかってるんだ。だから、俺には近づかねぇ」  おそらく湊は最初の一瞬で見抜いたのだ。たとえ蒼が己のすべてを受け入れてくれたとしても、父親はそうではないという、その奥深くに隠したつもりだった恐れと嫌悪を。  息子に比べて情けないことだと、彼は雪也に胸の内を吐露した。何も知らずに、そうすればほんの少しだけ罪悪感が薄れ、楽になれるから。それは計算したものではなく、無意識だけれど。

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