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第271話
大臣の籠が停まっているというだけで民衆は頭を垂れ、行き来を制限される。そして繰り返されるのは女を漁る行為であり、その結果として女がどのような返事をしようとも気に入らないと突き放して、そしてまた繰り返される。確かに彼女の言う通り、民衆からすれば迷惑極まりない。ましてその理由が女漁りとあれば、尚更腹立たしくも思うだろう。
面倒な事だと小さくため息をつき、さっさと買い物を済ませてしまおうと歩き出した周に、女主人は思い出したように声をかけた。
「あ、ちょいとお待ち! そういやぁ、あのお大臣は何を思ったのか、最近じゃぁ男にも声をかけてるらしいよ。あんたも可愛らしい顔してるからね、気をつけな」
そんな不穏な忠告に、ピクリと周の肩が小さく跳ねる。女主人は子供の周を怖がらせてしまったかと眉根を寄せたが、周は何も恐れを抱いたわけではなかった。
(男ってことは、もしかしたら……)
雪也も、狙われる可能性があるというのか? あの、誰よりも美しい人が。
(そんなこと……)
許さない。
周は頭だけで振り返ると、女主人に小さく頭を垂れて再び歩きだす。ギュッと唇を噛んで、暴れだしそうになる己の感情を抑え込んだ。
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