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第277話
「弥生は理想を誰かに押し付けるようなことはしないよ。今だって、それをしているわけじゃないさ。ただ……周りの感情や、この先がわかってしまっただけだよ。それがどういう意味かわかってしまうから、人としてではなく、為政者として感情を優先させてほしくなかったと、そう思ってしまっただけだよ」
今日は華都と各領主、そして衛府の会合があった。時代の流れゆえか、衛府の力が弱まっている今を、政治の主権を取り戻したい華都や、それに追従する華都派の領主たちが見逃すはずもない。近頃は小規模であるものの、血気にはやった若者たちが「政権を華都に」と叫びながら町民を巻き込んで衛府の者を襲撃する事件も多発していた。今回の会合はその過激な動きを抑えるためのものであるはずだったのだが、当たり前のように事は衛府の思う通りに進んで葉くれなかった。
「それに、今回は少し分が悪かったんだ。姫宮様が嫁がれた上に、上様が年若いとあって、華都の復権を狙う摂家たちが仕掛けてくることは、前からわかっていただろう?」
隙を見せれば付け込まれる。弱さを見せれば侮られる。それは普段、刀よりも蝙蝠――扇子――を持ち、優雅に座している摂家も同じことだ。政権を衛府から朝廷に取り戻すことを願う摂家たちにとって、今ほどの好機は無い。
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